タリムの法











私はコンサートまでの期間、なるべく加地くんと練習をした

加地くんは放っておくと、すぐ疲れちゃったって言う

でも…それって多分、本心じゃない


怖いんだと思う…練習するだけして…結局報われなかった時に


加地くん自身が練習したからという過程じゃなく結果で出したがってる

結果には才能もついてくる…否が応でも…


そして比べられる…それを…恐れていて怯えていて…

そして蓮くんに敵わないと自覚していて…


だけど、そんなこと人には見せたくないんだろうな…

ううん、見せたら悪いと思ってるんだろうな…

だからサービス精神旺盛で…人を楽しませて…

重い感情は自分の中に閉じ込めて…

自分の中だけで解決しようとして…


何でもスマートにこなせる加地くんなのに

好きだから…好きな音楽の世界だからこそ



そんなに苦しんでるんだね…



だから放っておけない

何も言わないから

そういうことだけ何も言わないから…私が傍にいて…


支えたい…






「最近、彼とばかり練習しているんだな…」

「うん、ほら…コンサートまで私が面倒見るってことで
 蓮くんには納得してもらったし、カルテットやりたいし」

「本当にそれだけだろうか…?」

「え?」

「君は…コンサートが終わったら…俺の所に戻ってくるのだろうか?」

蓮くんの言葉に動揺する

「あ…当たり前じゃない。蓮くんと練習するよ?前みたく」

「俺が言いたいのはそこじゃない…心は…?俺の所に戻ってくるのだろうか?」


―――心?


私は驚いて目を見開いた



「他のことなら気付かなかった…君のことだから…気付いてしまった…
 だが…気付かないでこのままにしておけば良かったろうか…」

蓮くんが私に背中を向ける

「彼のことを庇った君の瞳…彼に焦がれていた…
 俺は…嫉妬した…俺も見たこともない君の瞳をさせた彼に…
 君は音色も瞳も正直だ…」




私…そんな瞳をしていたの?

気付かなかった…

だけど…私は自分の気持ちに自覚した彼を愛している自分に





教会でのコンサート当日


「日野さん緊張してる?」

「加地くんもでしょ?」

「ふふっわかる?僕、すっごく緊張してるよ…情けないな」

恥ずかしそうに前髪を触る加地くん

「情けなくなんかないよ…これからもずっと一緒にいるから…
 だからヴィオラ弾き続けてね」

「え?日野さん…それって…」

「だから…弾き続けてね…葵…くん?///」

「……音楽の女神は必ずしも裏切るばかりじゃないんだね」

「え?」

「こっちのこと。僕、かわいい彼女のために頑張るから」

「そういう恥ずかしいことは言わなくて良いから!///」



教会の鐘がなって私達のカルテットが成功したことを祝福した


これからも多くの音色を奏でていきたい


彼をずっと支えながら…




〜Fin〜










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