翌日、加地くんはいつも通りだった
普段と同じように笑って
普段と同じように誰かを喜ばせて
普段と同じようにみんなの人気者
昨日の加地くんは…いったい何だったんだろう…
どこか思いつめていた加地くんは…
「香穂子…?」
「れっ…蓮くん何だっけ?」
「聞いてなかったのか?」
「ご…ごめんなさい…」
どうかしてる…蓮くんとの練習中に…
「何か悩み事でも?」
「ううん、そんなんじゃないから」
まさか…言えるわけない…加地くんのことを考えていたなんて
「それなら良いが…
俺で力になれることがあれば何でも言ってくれ」
「うん……」
蓮くんが優しく微笑んだ
「暗くなる…その前に帰ろう」
帰り道も私はどこか上の空で…
こんなに優しい彼が傍にいるのに“彼”のことを考えてしまう自分が…
よくわからない…
「蓮くん…私、学校に忘れ物してきちゃったみたい…
ごめん先に帰ってて」
「え?」
「ホントにごめん…引き返してもらうのも申し訳ないから…
先に帰って。ね?」
「しかし…」
「ホントに…先に帰って…」
「……あぁ、わかった。気をつけて。」
ごめんね
心の中で蓮くんにまた謝る…
私は通り道である臨海公園に急いだ
さっき…そこに入っていく彼を見たから…
彼…加地くんは…海を見つめていて…
普段の彼とは違う憂いを帯びた瞳が色っぽくて
潮風に揺れる長い前髪が揺れるのと同じように
私の心も揺れ動く
「夜になっちゃうよ…?」
いつまでもそこから動かない彼に話しかける
「日野さん?どうしたの?」
そうだ…私…何やってるんだろう…
蓮くんに嘘をついて…加地くんを追いかけてきて…
自分の行動がわからない…
俯いたまま何も言わない私に加地くんの甘い声が落ちてくる
「海ってさ…見てると不思議だよね…何か何でも吸い取ってくれる気がするんだ
僕のこんな気持ちも…」
「加地くんの…気持ち…?」
「君のことが好きっていう気持ち」
「えっ?///」
「告白する前に失恋って悲しいけどね
月森くんには敵わないからさ…音楽も…」
「音楽…?」
見つめた加地くんの蒼い瞳が悲しげで…儚げで…
思わず私は彼の腕を握りしめていた
「日野さん?」
びっくりした顔で加地くんが見る
「ごめん…何でもない」
手を引っ込める時に触った自分の頬が熱い
「肌寒くなってきたね。送っていくよ。女の子一人じゃ危ないし」
そう言った加地くんはもう普段通りの彼で…
結局、理由も教えてもらえなかった
サービス精神旺盛の彼との帰り道は本当に退屈しなくて
女の子の好きな話題も網羅している彼にずっと楽しませてもらえた
「送ってくれてありがとう。とっても楽しかったよ」
「それなら良かった。僕こそ日野さんの笑顔を見られて、とても嬉しかったよ」
「そんな///恥ずかしいこと言わないでよ…///」
尻つぼみになっていく私の言葉
加地くんの甘い言葉にドキドキしてくる
ちゅっ
加地くんに頬にキスされた
「ごめんね…かわいかったから…」
「っ///」
「本当はここにキスしたかったんだ…」
私の唇をそっとなぞる加地くんの指先
甘くて色っぽい視線にぶつかって…
どんどん私の頬が赤くなる
「じゃあ、また学校で」
ほほ笑むと加地くんは私を振り返らず帰って行った
さっきまであんなに好きって言ってたのに…
加地くんの気持ちがわからない…