この間の罪滅ぼしだよって日野さんが中庭でヴァイオリンを弾いてくれる
甘美で惹かれる音色…僕の傷を癒してくれるみたいだ…
「加地くん、何かあった?」
ヴァイオリンを弾き終えた日野さんが僕の顔を窺う
「あっ…ごめんね。せっかく弾いてくれてるのに…
少しボーっとしちゃってて…」
「ううん…何か…思いつめてない?」
僕は驚いて日野さんを見た
まいったな…そんな風に見せた覚えはないんだけど…
「あの…私…役に立てるかわかんないけど、話聞くとかならできるし…」
どこまでも澄んでいて…凛とした強さを秘める瞳に…
僕にない美しさを持つ音色に…
引き込まれる
「…………話を聞いてくれるだけじゃ…癒えないよ?」
僕は「えっ?」と聞き返してきた日野さんの唇を塞いだ
最初は少し身じろぎした彼女
だけど開いた隙間から口内に侵入した僕の舌にすっかり翻弄されている
唇を解放した時はとろんとした瞳で僕を見つめていた
「僕のこと癒してくれる?…美しい君が…」
彼女の唇をなぞって、甘く囁くと僕はその場を立ち去った
甘い余韻だけを残したまま
〜香穂子side〜
加地くんに突然キスされた…
拒絶しようとしたのに…できなかった…
自分の唇をなぞって彼の唇の感触を思い出す
柔らかい感触も絡め取る舌も…
彼が発する甘い言葉も…私の思考を鈍らせる
どこか思いつめてる加地くん…
何でだろう…
放っておけないよ…
こんなことされて
困るし、怒って良いのに…
怒れない…
どうして…
あんな瞳で見つめるんだろう
あんな甘い言葉で誘うんだろう…
蝶が花に惹かれるように…
私もあなたに惹かれてしまう…