偲ぶ華





















女学校へ行き、勉強をした後、いつものように秘密基地へと向かおうとした時だった


家から迎えの者が来ており、すぐに帰宅させられる



「香穂子、こちらに来なさい」

父に応接間へと呼ばれると一組の夫婦と共に昨日会った青年がいた


「柚木侯爵と御子息の梓馬くんだ。
 喜びなさい、香穂子をゼヒお嫁にと申し出を頂いたのだから」


香穂子は大きな瞳をさらに大きくして驚いた


見合い話など冗談ではない

自分には和樹がいるのだから…そう言いたい気持ちでいっぱいであった



だが、親の決定には絶対だ


ましてや名門の侯爵の息子との縁談をかなり喜んでいる父親に言いだせるはずもない



「君のような可愛らしいお嫁さんを頂けるなんて光栄だな…」


相変わらず美しい笑顔をたたえる
だが、和樹のように素直で綺麗な感じが流れてこない

嫌がるように梓馬から目を逸らした





着々と結婚への準備が進んでいく…

和樹との逢瀬の中でもそのことを伝えられずにいた

伝えて和樹が離れて行ってしまうのではないか

そんな不安がいつも脳裏にあった



「どうしたの?最近、元気ないみたいだけど…」

和樹が心配そうに香穂子を窺う

「……実は」

香穂子はとうとう重い口を開いた

自分一人では抱えきれない憂鬱、不快感


「そんな…香穂ちゃんが結婚しちゃうなんて…」

和樹は明らかに動揺していた

「オレがもっと頑張ってれば…頼りなくて…ごめん」

項垂れる和樹に香穂子は堪らなくなって泣き出した


「このままどこかに連れてって…和樹さんと一緒にいたいの」


和樹は驚いて香穂子を見つめたがすぐに決心した顔になった


「……ダメだよ。そんなご両親を悲しませることしたら。
 必ず、迎えに行くから。君が他の奴に取られる前に
 会社を大きくする。君のために頑張るから。
 オレ、君のためならどんなことでも頑張れるんだ。」


キラキラとした和樹の笑顔にスッと不安が消えていく

「信じて…待ってる…」


誓いの口付けをして香穂子は安らかな思いでいた




そんな香穂子の想いを現実は裏切ることになる

柚木との結納が進められ、女学校卒業を待たずして結婚が決まったのだ


今日も柚木との会食の席が設けられ、
両親とは対照的に憂鬱そうな自分の姿が窓ガラスに映る



「香穂子さんはヴァイオリンが弾けると伺ったのだけれど…
 今度、僕にも聴かせてもらえないかな?」


梓馬が仮面のような笑顔で尋ねてくる


嫌で…嫌で仕方ない


縁談話が進むにつれ和樹との時間が少なくなっている

早く会いたい…和樹の胸に飛び込んでいきたい…



「お客様、困ります!」

慌ただしい音が外で聞こえると共に和樹が姿を現した


「っ!和樹さんっ…!」


「何だね、君は」


父が明らかに不快な顔で和樹を睨みつけた


「あの…オレ…」

和樹がそう言いかけた時、梓馬が口を開いた


「金融業界で実績を伸ばしてる火原くんだよね?
 すごいな…と思っていたんだ。
 コネも何もない君がそこまでなるのは苦労したよね?
 とても感心してるんだよ…」


梓馬の意味深な物言いがヤケに引っかかる



「オレ…香穂ちゃ…香穂子さんと結婚したくて…
 会社も軌道に乗って、業界ではトップになりました
 認めてもらえないでしょうか…?」


「お父さま、お願い!」

香穂子も和樹と共に頭を下げた



「僕はお邪魔なようだから…今日はこれで帰ります
 またね、香穂子さん?」


口の端を上げて笑う柚木の顔に一瞬背筋が凍った



柚木が帰った後、父母と香穂子、和樹で話し合いが成されたが
父は一向に首を縦に振ってはくれなかった



「また…来るよ。オレ、諦めないからさ。」


帰り際、和樹が笑顔でそう言った


「これ…香穂ちゃんに…」

蓋を開けるとそこにはシルバーにピンクの石をのせた指輪があった

「かわいい」

香穂子はおもむろに、左手の薬指に付ける

「嬉しいな///そこにつけてもらえるなんて…
 だけど、オレもそのつもりで渡したから
 ぜったい認めてもらえるように頑張るからね!」


和樹は笑顔で帰って行った


部屋で一人指輪を見つめ、幸せを噛みしめる
しかし、相反する気持ちも感じていた


去っていく時の柚木の冷たい眼差し

普段のような笑顔とまるで正反対だった

――胸騒ぎがする…



やがて、その心配は現実となる














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<あとがき>
いつもの書き方と違うので、いびつになってないですか??
ドロドロなので楽しんでもらえてるか心配〜(><)