西洋の文化が取り入れられ、自由な雰囲気が漂う様になってきた時代
とはいえ、男女交際には厳しく
結婚も家制度としてのお見合い婚が多い
むやみに寄り添って歩くなど
破廉恥として取り締まられることもある
だからこそ香穂子と和樹は秘密の逢瀬を重ねていた
「おまたせvv」
和樹の胸に大胆に抱きつく香穂子
「かっ香穂ちゃんダメだよ…
いくらここが二人しか知らない秘密基地だからって」
和樹が秘密基地と名付けたこの場所は
子どもの頃に森で見つけた小さな洞窟
足もとの固い岩には、い草を敷きつめ、入口には簡素な扉を作った
二人は幼い頃からの知り合いであった
女の子のままごとやおはじき遊びに、香穂子はあまり好まなかった
男の子のように外で遊んでいたかった香穂子は時折、
そっと抜け出して家の裏にある森に出かけた
そこで数人の男の子とコマで遊んでいたのが和樹だった
人懐っこい和樹と香穂子が仲良くなるのに、そう時間はかからなかった
「もっと和樹さんに会いたい…」
しっとりとした瞳で自分を見つめる香穂子に思わず欲望をぶつけたくなる
「香穂ちゃん………」
そのまま押し倒して、何度も啄むような口付けを交わす
袴姿の香穂子を乱れさせていくと、その下の白い肌が段々と露になっていく
「ごっごめん…やっぱりこういうのはダメだよね」
思わず夢中になってしまった和樹は香穂子に背を向けて服を整えるように促した
婚前に香穂子に男を教えることなどしたくなかった
「ねぇ…いつになったらお嫁さんにしてくれるの?」
「オレがちゃんと一人前の貿易商になったら…
堂々と君のご両親に会いたいんだ
認めてもらえないかもしれないけど、頑張るから」
「うん」
思わず和樹の背中に寄り掛かる
和樹の体温に鼓動に香りに…香穂子は夢中だった
先祖を公家に持ち、伯爵という称号を与えられた香穂子の家
商人の出である和樹との結婚は難しいものがあった
だが最近は自由恋愛も謳われるようになってきた
和樹は誠実で明るい人柄だ
いつかは両親も認めてくれる
香穂子にはほのかな期待があった
和樹との幸せなひと時を終えて帰路へとつく
「ただいま戻りました」
父に挨拶すると早々にドレスに着替えるよう命じられた
「また行くのかぁ…」
使用人にドレスを用意されたり化粧を施されながら
香穂子の心は憂鬱だった
明治時代に流行した鹿鳴館が廃止になったとはいえ
華族の間では時折、華やかなパーティが開かれる
香穂子にはその場がたまらなく苦痛だった
特に話題が楽しいわけでもなく
当たり障りのない会話を延々と続ける
あとはお互いの褒めあいとダンス
楽しいわけでもないのに、何故こんなに人が集まるのだろうと
香穂子は常から考えていた
誰にも話しかけられたくなくて、つい常に部屋の隅いる
こうしている間にも和樹は自分のために商いを学んでいる
和樹の家の会社は今では国内でも大きなものだ
いずれは日本経済を担うほどになるかもしれないと香穂子は思っている
自分の両親に認められるために日夜がんばる和樹を考えると
こんな所で、ただ何となく過ごしている自分が申し訳ないように感じた
「気分でも悪いのかな?」
ふと我に返ると頬笑みを湛え、中性的な美しさを持つ青年が立っていた
「いえ…そういうわけでは…」
正直、ここで会話するのは苦手な香穂子は早く追っ払える言葉を探す
「日野伯爵のお嬢さんですよね…
良かったら僕と踊ってくれませんか?」
和樹と対照的な、男性にしては白い手を延ばされる
その時の笑顔は息を呑むほどの美しさだった
だが、そっとしておいて欲しいと願った
こんな美しい彼と踊ることになったら注目を浴びてしまうだろう
自分としてはこの場をやり過ごしたいだけなのだ
「迷惑だわ」
香穂子は差し延ばされた手を払い退けた
「気に障るようなことを言ってしまったのかな…
でも、君と話がしたかったんだ」
青年は美しい笑顔を崩すことなく香穂子の傍を離れなかった
何を話すわけでもなく青年はじっと香穂子を見つめていた
香穂子にとってはたまらなく嫌な時であった
まさかこの男性と再び会うことになることなど、
この時の香穂子は思いもしなかった
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<あとがき>
まずは序章ですv
普段と書き方変えてみました。自分的感覚としては昼ドラ語り風(笑)
一応、時代背景も表現できるように努めたのですが…微妙ですね;
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