紫陽花









〜蓮side〜



――「彼女…とてもイイ声を奏でるんだね…」――

あの人…柚木先輩はこう言った…


彼女とは香穂子のことなのか?

信じられない…


香穂子が…俺を裏切っていたというのか…



いつだったか香穂子が変だった夜があった


あれは柚木先輩のせいなのか…


俺の香穂子を…

俺の香穂子を穢すなんて許せない



彼女を抱いた時、俺は夢中になりすぎて彼女を壊してしまうと思った

それからは自分をセーブした

彼女を欲望の捌け口にしたくなかった…



宝物のように大事に扱ってきた


大事な大事な香穂子…


「泊まって行って」「抱いて」
そんなことを言う女性じゃなかった


あいつが香穂子に吹き込んだに違いない


悪いのはあの男…
柚木梓馬だ







〜香穂子side〜



蓮くんから呼び出された


電話の声はいつもとどこか違くて…



「蓮くん?どうしたの?」


お手伝いさんに通された蓮くんの部屋は真っ暗だった


「蓮くん?」


白いシャツを着た彼の姿が目に入る


「……君は俺を裏切っていたのか?」


蓮くんの言葉に私は固まった


「柚木先輩と寝たのか?」


私の手が小刻みに震えだす

――蓮くんに知られてしまった…


大好きな蓮くんに…
私のことを大事にしてくれる蓮くんに…



真っ直ぐな瞳で見つめられる


「裏切っていたのか?俺を」


彼には嘘をつけない



「……ごめんなさい」


「なぜ?俺の何が悪い?」


蓮くんに肩を揺さぶられる


「違う!蓮くんは悪くないの!わからない…流されてとしか…言えない
 自分が弱かったの…
 蓮くんのことは好き…でも、もう傍にいられない」


これ以上、彼に幻滅して欲しくない

理想の私のまま消えてしまいたい


「行かないでくれ!」


立ち去ろうとした私を蓮くんが後ろから抱き締める


「君が好きなんだ…どうしようもなく…俺は君なしじゃ生きていけない
 俺のことが好きなら…傍にいてくれないか…?」


「どうして?私、蓮くんを裏切ったんだよ?」


「君が俺を好きだと言ったこと…それで十分だ…香穂子…君を放さない
 結婚しよう?ずっと傍にいて…俺だけの傍に…」


その夜、蓮くんは私を抱きしめて眠ってくれた…

こんな彼の傍から離れるなんて私も出来ない…


一時の快楽なんかで…


私はやっぱり蓮くんが好きだから…

蓮くんが私を望んでくれるなら私はそれに応えたい



私は蓮くんの家で暮らし始めた









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