「今日も楽しかったなぁ〜」
仕事といっても大好きなヴァイオリンに携われる私
本当に恵まれてると思う
玄関を入って一番先に挨拶するのは犬のぬいぐるみのレンくん
「ただいまレンくん♪」
蓮くんがUFOキャッチャーで取ってくれたもので今でも大切にしてる
夕飯を食べて居間でくつろいでいると訪問を知らせるチャイムが鳴った
こんな時間に…誰だろう…
玄関の覗き穴を見て驚いた
「柚木先輩!?どうしたんですか!」
ドアを開けながら叫んだ私に顔をしかめる
「うるさいな…俺は疲れてるんだよ…大きな声だすな」
何も言ってないのに当たり前のように部屋に上がり込んできた
「ちょっちょっと先輩!散らかってるんで見ないでくださいよ!」
「お前に整然とした部屋なんて似合わないし、こんなもんだろ?」
1LDKの私の部屋。先輩のゴージャスな部屋なんかとは比べものにならないだろうけどね…
寝室兼居間のカーペットに座り込むとこの間のワンピースを渡してくれた
「何も先輩自らが来なくても…」
「なに?不満なの?」
「いえ、お手を煩わせて申し訳ないなぁと…」
スーツの上着も脱いでるしネクタイも緩めてすっごい寛いでる…
初めて来たくせにこの柔軟さは何?
相変わらず先輩が何考えてるかさっぱりわからない
この間は誰かに届けさせるとか言ってたくせに
「先輩、おなか空いてませんか?お口に合うかわかりませんけどご飯召し上がりますか?」
「お前の料理食べて死なないならもらおうかな?」
「そんな不味くないです!!」
先輩は何だかんだ言っても全部食べてくれた
「先輩、また前みたいに本当の自分隠してるんですか?
だから疲れるんですよ〜」
「お前みたいに気楽じゃないの。会社経営は大変なんだよ。」
「じゃあ、奥さんに見せれば良いじゃないですか?
好きな人の前なら素直になれますよね。」
「………お前は誰の前でも素直じゃないか」
「まぁ私は考えてないっていうか…あ、お茶入れますね〜」
私は先輩が食べ終わった食器を片づける
洗い物をしてる私に先輩が話しかけてきた
「お前さ、月森くんが本当に好きなんだな」
「は?からかってるんですか?」
「違うよ…写真まで飾ってあるし、月森くんのスクラップまでしてるし」
スクラップってちょっと
「何勝手に見てるんですか!?///」
「別に見られて困るもんじゃないんだから良いだろ?」
「そうですけどっ!」
私は先輩からスクラップノートを取り上げて元の本棚に戻した
「お前、一人の男をずっと好きでいて飽きないの?」
「え…?」
「浮気したいとか思わないの?」
「思いませんよ!」
そう言いながらも蓮くんの写真に向けて言った自分の言葉を思い出す
――「コラ!そんなこと言ってると浮気しちゃうぞっ」――
「たまには別の男を味わってみたくならないの?」
先輩がどんどん私を追い詰める
「なりませんよ…」
「本当はあるんだろう?そういう願望…」
「私はっ!」
次の言葉は先輩の唇で遮られた
先輩の口付けは甘いのにどこか官能的で――波に引き込まれる――
私を絡めとる舌遣いも
服の中に侵入してくるその指も
拒絶できない…したくない…
快楽という名の波に私は引き込まれてしまった
「他の男は?気持ち良かった?」
裸のまま先輩が意地悪な顔で聞いてくる
「…っ///」
――気持ち良かった
そんなこと答えられない
ただでさえ、蓮くんを裏切ってしまったというのに…
「先輩は…先輩は結婚してるのに良いんですか?」
「結婚?ハッ、契約の間違いだろう?俺は駒みたいな存在だからな
会社と会社の合併みたいなものだよ」
先輩はまたどこか寂しそうな顔をした
「香穂子…」
私を珍しく名前で呼ぶと、甘えるように胸に顔を埋めてくる
意地悪かと思えば甘えてきたり、優しくしたり…
先輩は色んな顔を持っていて目が離せない
しばらくすると先輩は私から離れて身支度を始めた
「色々とうるさいからね…今日のお前、かわいかったよ」
キスをして先輩は帰って行った
乱れた自分の髪を手ぐしで整えながら
私は茫然としてしまう
頭の中がぐしゃぐしゃだ…
気持ちもこんなに簡単に整えられたら良いのに…
既に整った自分の髪を見ながらそう思った
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<あとがき>
すいませぇぇん。やっぱり柚木梓馬は色仕掛けです;;;
捻りがない自分…。