〜香穂子side〜
蓮くんは、私をずっと女の子として見てた…
私はずっと蓮くんを弟…家族としてしか見てないよ…
いつも隣にいて、それが当たり前で…それ以外に何だって言うの?
でも理奈が言う通りに蓮くんがそういうことを望んでるんだとしたら…
チアの練習を終えて自宅に戻った私は蓮くんの部屋を訪れた
「蓮くん、私。入るよ?」
いつもは何も言わずに開けられたドアも今は何だかとても重苦しい
鉛でできてるんじゃないかと思えるほど私にとって開けにくいドア
やっとのことでドアを開けると
ピアノの隣でヴァイオリンを構えた蓮くんが立っていた
そう――誰も寄せ付けないような雰囲気を放っている
私を一瞥すると目線を再び楽譜に戻した
「なにか?俺は君に会いたくないと言ったはずだ…」
こんな台詞聞きたくない…
いつもみたいに笑いかけて欲しい
私は無言で蓮くんを見つめると制服を脱ぎ捨てた
「かっ香穂子!?」
「良いから!何しても良いから!……だから避けないで…
蓮くんがいないと寂しい…寂しいよっ…」
私はそこまでいうと堰を切ったように涙が溢れた
『香穂子に嫌われなければそれで良い』
『香穂子には俺がいるよ』
私にとって蓮くんの言葉は心地良かった…私の大切な人
蓮くんは頬を真っ赤にしてその状況に驚いている
私の方に歩み寄ってくる
これからされること…怖い…
でも…もう蓮くんがいない方がイヤだから…
私はギュッと目を瞑った
ふわっ
私の肩に制服が掛けられると蓮くんに抱きしめられた
「それだけがしたいわけじゃない…俺は…君が好きなんだ…
俺のこと男として見てくれないか…?
それからその答えをくれないか…?待つから…君が好きになってくれるまで」
「………うん」
蓮くんの琥珀色の瞳が優しく微笑んでいて
すごく安心した…
私も蓮くんを抱きしめ返した
なんか…すごくあったかい気持ちになる…
「もう…避けたりなんてしないでね」
「君を避けていても…考えない日は一日もなかった…
香穂子…それぐらい君は俺にとって大切な女性だから」
頬につたう涙を蓮くんの繊細な手が優しく拭ってくれた
「私にとっても蓮くんは大切な男の子だよ…?」
せっかく自分の気持ちを言ったのに蓮くんは何故か苦笑する
「君のは…まだ意味が違うから……
でも、それだけ気づいてくれただけでも進歩かもしれないな
君は鈍いから」
「ちょっ!真剣に悩んだのにそんな言い方ないでしょう!」
「すまない…俺にとっては10年越しだったんだ…
君が俺を大切な…男だって言ってくれただけで、とても嬉しく思う」
蓮くんが何だか優しく笑うから私の鼓動が少し高鳴った気がする
久しぶりに蓮くんの笑顔を見たからだよね…?
「これからも…傍にいてくれる?」
「あぁ…君が望むなら……」
そして私たちはまた日常に戻った
けれど、それが徐々に形を変えていくなんて
蓮くんいわく“鈍い私”に気づくはずなんてなかった
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<あとがき>
『君のトナリ』を更新したら拍手とかで褒めていただけたので、調子に乗って更新しました(←単純)
このままだと魚月が最も苦手なほのぼの系になってしまふ…
たぶん魚月なのでスパイス入れると思います…能力なくてすみませぬ;
魚月的には最後の蓮くんのセリフ『君が望むなら』が胸きゅんポイント!
途中で柚木先輩っぽくなってしまったのでしきりに修正する回となりました