君のトナリ










〜蓮side〜





音楽科の人間に絡んだと言っていたからどうせ俺がらみだろう…

土浦には感謝している
香穂子に怪我がなくて良かった


わかってる…わかってるんだ
だけど香穂子が他の男の名前を口にするだけで、感情が抑えられなくなる



これは…ただの嫉妬だ



香穂子に初めてあったあの日から俺はずっと香穂子だけを見てきた
君にも同じでいて欲しい


俺のことだけ考えて

俺のことだけ見ていれば良いんだ



土浦のことなんか…他の男の名前なんか君の唇から聞きたくない




俺は練習をする

学内コンクールで優勝して香穂子に俺の想いを伝えるために








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「蓮、演奏前に悪かったわね」

「いえ、こちらこそすいません。」

そう…俺はこの人たちにも仰々しい態度で接してしまう



「パパ!美沙ママvv」

「香穂ちゃん」

香穂子が俺の両親に抱きつく

「香穂ちゃん、しばらく見ないうちに更にかわいくなったね。」

「あら、あなた、香穂ちゃんは前からかわいいんだから、更にかわいくなったら大変じゃない」

「もうっパパもママもやめてよ…恥ずかしいよ///」


香穂子が来てくれて良かった…俺は香穂子のように両親に甘えられないんだ
彼女がいると陽だまりのように暖かくなる
俺のコンプレックスも他人への不信感も全て包んでなかったことにしてくれる

だからこそ俺は香穂子に固執してしまうのだろうか


「じゃあ蓮、私たちは客席から見ているから」

「楽しんで演奏しなさい」


「………はい」


俺の中に動揺が走る…“楽しんで”演奏できるのか?

「蓮くん?」

香穂子が心配そうな瞳で見つめてくる

「大丈夫だ…いつも通り弾くだけだ。」

俺は自分にも言い聞かせるように答える


「私、直前まで傍にいても良いかな?」

「あぁ……そうしてくれないか?控室はこっちだ。」

香穂子がいてくれれば心強い


控室には出場者の他にもたくさんの生徒が入っていた
特に多いのは柚木先輩の周りだが…




俺がヴァイオリンを手に取ろうとした時だった

「っ!」


ケースに仕組まれていたガラス片が右の人差し指に突き刺さる


「蓮くんどうしたの?」

「見るな!香穂子、こちらに来てはダメだ」


俺の制止は空しく、香穂子はその最悪な状況を目撃してしまった


「蓮くん…指から血が…っ」


――まずい…発作が出てしまう




「っわ、月森くん、どうしたの!?」

火原先輩の声で出演者たちが騒ぎに気づく

「土浦…すまないが香穂子を連れて外に行ってくれないか」

「あ?」

「早く!発作が出る!」

「あ…あぁ」

土浦は香穂子を連れて控室を後にした



俺は何をしているんだ…
香穂子にまたコンクールの辛い思い出を作ってしまうなんて

指先の痛みよりも心の方が遥かに痛かった







********************************************
<あとがき>
香穂子を守るつもりが、最悪の事件をまた見せてしまうことに…
心を痛める蓮くんです

ちなみに、ガラス片騒動に梓馬は関係ないです。
控室に柚木親衛隊が多かったと書いたのは、それだけ控室がごった返してて
誰が入ったかもわからないくらいだったということを現わしたかっただけです。
誤解がないように記しておきます〜〜





次へ

前へ