〜蓮side〜
「日野さんと土浦くんはヴァイオリンロマンスのカップル!
一緒に住んでるしラブラブだよね」
俺の中で何度もその言葉が反芻される
“香穂子が土浦と付き合っている”
それだけで俺を驚かすのに十分な情報なのに
“一緒に住んでいる…”
何故だ…
確かに俺たちは別れた。だけど…何故?
誰もいない広場で練習をする
俺が弾くのは「感傷的なワルツ」
こういう気分の時はいつもこの曲だ
我ながら情けない…
キィ・・・
練習室の窓が開いた気がする
ふと目をあげると
同じく大きな瞳をさらに大きくした香穂子がいた
そのまま立ち尽くす
俺は反射的にヴァイオリンを構えて香穂子に目で合図した
彼女は覚えているだろうか…?
この意味を…
〜香穂子side〜
窓の下にいた月森くんがヴァイオリンを構える
この合図の時はこれだ
私も反射的にヴァイオリンを構えた
そしてこれを弾く
バッハの「G線上のアリア」
どちらがどのパートを弾くか
どこで溜めるか
どんな風に弾くか
全て体が覚えている
月森くんがどこで溜めるか
ここの速度はどうするか
二人で解釈を話し合っていたから
年月が経っても私たちにズレはなかった
演奏が終わり、ふと彼を見る
切なげな瞳で優しく微笑む
あぁ…その笑顔を見たのは何年ぶりなんだろう…
私が恋焦がれた
私だけに向けられるその微笑み
逃げるように窓を閉めて背中を向ける
自分の頬に触れると紅潮しているのがわかる
熱い…
そんな顔されても困る…
困る…
私は…もう…
自分を落ち着かせて時間を見ると
もう17時に近い
「急がなきゃ」
私には梁が待っている
急いで片付けると、梁が待つエントランスへと向かった
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<あとがき>
彼の瞳に見つめられたら困りますね。。。
でも自分には待っている人が…どんどん香穂ちゃんに揺さぶりをかけていきたいと
思いまーす(笑)