〜梁太郎side〜
「まだ、少し早いか…」
香穂との待ち合わせにはまだ早い
俺は譜読みをしようと静かな広場へ向かう
「あっ」
二階の練習室で練習している香穂が見える
窓を開けて休みだした
「あいつはすぐさぼるな…」
風に気持ちよさそうに身を委ねる
愛らしい姿をからかってやろうと近づく
俺は香穂の異変に気づいた
さっきまでの表情を一変させ
ただ一点を見つめて、ただ呆然とする香穂…
見つめているのは月森蓮…
いったい何だっていうんだ…
まるで珍獣でも見るかのようだ
次の瞬間だった
俺の疑問がやがて嫉妬へと変わっていくのは
目を合わせただけで合奏をし始めた
何の曲を弾くかもわからないはずなのに
偶然当たったとしても何でこんなにピッタリとあっているんだ…
どちらがどちらのパートを弾くかも
どう表現するかも
まるで狂いがないのだ
俺の中である考えたくもないことが浮かぶ
――二人は深い仲だったんじゃないか――
途端にその考えは忘れる
らしくもねぇ…そんなの
俺は自分の中に浮かんだ黒い気持ちを無視した
まさか後々こんなに大きくなるとは気づかずに…
〜香穂子side〜
「梁!お待たせ!」
「おぅ」
息を弾ませて彼に近づく
「早く帰ろう♪私、今日はオムライスがいいな!」
早く立ち去りたい・・・
彼・・・月森蓮がいるこの空間から
「お前さぁ…さっき…」
「なに?」
「いや…何でもねぇよ。
早く行こうぜ。タイムセールが終わる」
「うんっ♪そーいえば、アイスも安かったよ〜」
「そーゆーとこだけはちゃんとチェックしてんのな」
梁は笑いながら私にヘルメットを被せた
そう・・・私にはもう梁がいる…
もう後ろは振り返らない
もう彼には振り返らない
*******************************************
<あとがき>
ふふ…香穂ちゃん、強がっていられるのも今のうちです(←鬼・魚月)