Point of No Return〜戻れない路〜









〜蓮side〜





俺はしばらく2階の窓を見つめたまま動けなかった

――香穂子は覚えていた


二人の合図を
二人の解釈を


彼女に対する嫌がらせが増えるだろう
俺はそう思ったから二人の関係を秘密にすることにしたんだ


ただでさえ、普通科からの参加者というだけで
彼女は肩身が狭い思いをしていた

俺とのヴァイオリン・ロマンスという形で注目されても
彼女にとって迷惑以外の何者でもないだろう…俺はそう思った


二人で練習しない時

屋上から彼女のメロディーが聴こえる

どこにいても俺には彼女の音がわかる

それにそっと俺も重ね合わせる

会えない時間を
触れられない時間を

埋めるかのように

俺は彼女を抱くように優しく彼女の音を包み込む


それだけで幸せだった



近くにいれば良かった…

君と別れてから
苦しくて…もう一度君に会いたくて


日本に戻ってきた


君に一日でも早く会うために一生懸命で練習した
親の七光りではなく“月森蓮”として認められたくて
早く一人前になって
それから君をきちんと迎えに行きたくて努力してきたというのに


君は土浦と付き合っている


俺は…
俺は間違っていたのか?








〜香穂子side〜



久々に合わせた彼との合奏…

何でだろう・・・

彼は私も知らない私の音色を引き出す



テレビを見ながらそんな余韻に浸っていると

お風呂上りの梁に後ろから抱きしめられる

「香穂、いいか?」

そう言って器用に私の服を脱がせると
そのままベッドに押し倒された


べつに良いも悪いもない

だって私たちは付き合っていて
一緒に暮らしているのだから

梁に愛されながらも
私の頭の中は月森くんとのG線上のアリアでいっぱいだ



「やめて!」


自分でも驚くほど大きな声を上げてしまった


「ごめん…ちょっとそんな気分じゃなくて…」

「あ…あぁ、そういう時もあるよな…悪い」

途端に空気が気まずくなる

「私、お風呂に入ってくるね」


そう言い残し、私はバスタブへと向かう




―――――――――――――――――――――――――――

「…いたっ」


私がそう言うと月森くんはそれ以上してこない

「すまない…痛かったか?」

そう言って私の体を抱きしめる

どこまでも優しい人…

「…ごめんなさい///」

「気にしないでくれ…
 その…女性の身体はデリケートなのだから…
それに俺も無理をさせたくない」

男の人はこういう時に途中で止めるとか
無理だって何か聞いたことがある

月森くんは何度、その無理を理性で止めてくれたんだろう…

申し訳なさそうな顔の私に服を着せると決まってこういう

曲を合わせよう

身体を重ねられない分、音を重ねよう
君と俺の音が一つになる

寸分の狂いもなく
誰にも入る隙間もなく

二人だけの世界の音を作っていこう





そして何度も何度も話し合って
色んな曲の解釈をする

その時間は身体は触れ合っていないのに
彼の音色と私の音色が一体になって溶け合って
私たちだけの世界を作り出す






―――――――――――――――――――――――――――

触れ合っていないのに
優しく私を包み込んでくれる彼の音色

きちんと身体を重ねたのは一度きりなのに
未だに忘れられない彼の感触

「…たぶん初めてだったからだよ」

私はそう呟いて頭からシャワーを浴びた







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<あとがき>
揺れる香穂子!!これからも魚月は容赦しません。。(笑)


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