3年ぶりの日本
母国だというのになんだか外国に来たような気持ちが強い
人が溢れかえった町並み
自然に飛び交う日本語
だんだんと戻ってきたんだという実感が俺の中に生まれてくる
〜蓮side〜
少し歩こう…
海沿いの道をトランクを引っ張りながら歩く
頬を掠める潮風と波の音が
いつか彼女と来たことを思い出させる
自分の家である洋館に着く
少し篭った空気を感じるが
それは家政婦が誰もいない間も掃除していたせいかそこまで気になるものでもなかった
自分の部屋もきれいに掃除されている
ふと窓を開けて風を入れとふわりとベッドに横たわる
目を閉じると
君と初めて迎えたあの時のことを思い出す
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週末の香穂子との練習はだいたい俺の部屋ですることが多かった。
「違う!そこはもっと早く」
俺の教え方は少し厳しかっただろうか…?
あの頃は君の技術を伸ばしたくて
君のその音をもっと成長させたくて
自分のこと以上に君の練習に熱を入れていたんだ
君は俺の音を引き出してくれた
無機質だった音に命を吹き込んでくれた
君の音色は陽だまりのようだ…
どこまでも甘く…優しい
そんな君の音が技術がないということだけで正当に評価されないことに我慢がならなかった。
もう何時間もぶっ通しで指導しただろうか
香穂子にも明らかに疲労の色が見える
「すまない…無理をさせてしまったようだ」
「そんなこと無いよ…月森くんも自分の練習があるのにごめんね」
「いや…俺は何時でも練習ができるから…その…気にしないでくれ
何か飲み物を持ってくるから、待っていてくれないか?」
「うん、ありがとう」
俺はそう言って、下に飲み物を取りに行った
――そういえば、今日は家政婦もいない…
この家に二人っきりだった
そんな現実がふと脳裏をかすめる
自分の中に変な緊張とアツくなるものを感じる
――何を考えているんだ、俺は…
自嘲気味に笑い、淡々とアイスティーを作り、部屋に戻ってくると
余程疲れたのであろうか彼女は無防備にもベッドに横たわっていた
真っ白なシーツに広がった豊かな髪
アイスティーをテーブルに置くと隣に座り、彼女の髪を撫でた
細くて柔らかで芯がある
まるでヴァイオリンの弦のようだ…
確かピラストロ社のヴァイオリンにこんな色があった
深みのある落ち着いた音色を奏でるとか…
彼女が愛しい…
無防備な寝顔とその身体を見ていると自分が抑えられなくなってしまう
俺は彼女の身体にそっと毛布をかけた
―――見てはいけない
しばらくすると彼女が目を覚ました気配がした
瞬間、俺の頬に彼女の唇が当たる
「ごめんなさい…横顔が…あまりにも綺麗だったから…」
彼女は恥ずかしそうに顔を染めて俯きながら
自分の行動に自分自身でも驚いているという感じだった
「香穂子…俺もその…君の寝顔を見ていて同じことを考えていた
だから君がそう思ってくれたことは嬉しい」
「月森くん…///」
どちらからともなく唇を重ねると
、 そのまま俺たちはベッドの中へと沈んでいった
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我ながら理性がなかった…
振り返ってそう思う
彼女の身体を傷つけてしまったのではないかという心配と
彼女を知ってしまったことで更なる欲求が自分の中に芽生えるのを感じる
――もっと触れたいと――
だが痛みに耐えていた彼女の愛らしい顔を思い出すと
そんな強行に及ぶことはもう出来なかった。
君はどうしているのだろうか…
君の姿をこの瞳に入れたい