〜梁太郎side〜
陽の光で目を覚ます
――今何時だ?
時計は11時…
隣には疲れて眠っている香穂がいた
もう何回その行為を行っただろう
彼女の身体を隅まで味わった気がする
陽の光に照らされた彼女の裸は夜とは違う色っぽさがある
流れるような髪
細い肩
柔らかな胸
緩やかな弧を描くようなウエストライン
すらりと伸びる脚
生まれたてのヴィーナスのような神々しい色気が眩しい
全て俺の理性を麻痺させるためにあるように感じる
満ち足りた気持ちで香穂の頬をなでる
しばらくして目を覚ました香穂は
「…おはよう///」
と恥ずかしそうに微笑む
その姿が一層愛しくて俺はまた彼女を抱いてしまう
「もう!!容赦ないんだから!///」
香穂は拗ねて俺に背を向ける
「ごめん。もうしないから。…今日は」
くるっと振り返り俺を睨むとまたそっぽを向いた
彼女の一動作一動作が愛しくて仕方ない
「ずっと…好きだった」
彼女を後ろから抱きしめると
俺はやっと長年言いたかった言葉を口にした
それから何ヶ月かして俺と香穂は一緒に住み始めた
香穂の部屋には防音設備がないらしいし
第一、あいつの1人暮らしなんて心配で気が気じゃない
泥棒を招き入れそうなやつだし、俺がついていなくちゃいけないと思った
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〜香穂子side〜
「梁、時間ぴったり!」
梁のお母さんの紹介で梁はピアノの講師のバイトをしている
どんな時も毎日私を送り迎えしてくれる
なんでも私が車に引かれそうだかららしい
梁はお父さんでもあり、お母さんでもあり、お兄さんでも弟でもある
梁に言ったら「何だそれ」と笑っていたけど
心配して私を守ってくれて、家事もしてくれて、相談にものってくれて
遊び相手でもあって…
梁と付き合うことになって本当に良かったと思う。
でもこんなに愛してくれている梁に時々罪悪感を感じる
愛してくれればくれるほど苦しくなることがある
私は梁に月森くんとのことを話していない…
梁は知らない
それに私は寂しかったのだ…
厳しい音楽の世界で1人では生きて行けない
私にとって彼は精神安定剤だった…
きっかけはどうであれ、私は彼を愛している
そんな負い目を感じることなんてないのに
昔のことは忘れよう…
そう心に決めて彼が作ってくれたリゾットを食べる
そして夜はいつも通りに愛し合う
梁は毎日のように私を求めてくる
飽きないの?ってくらいに…
一緒に暮らしてて、送り迎えもしてくれて、夜も一緒で…
友達に羨ましがられるぐらい梁は私を大切にしてくれる
ずっと傍にいて私を愛してくれる
「香穂…香穂…愛してる…」
私に覆いかぶさりながら普段はあまり口にしないセリフを言う
いつも最初は「今日くらいは…」と思うのに梁にかかると
途端にそんな気分にさせられる
梁は正直、上手なんだと思う
私の首筋を伝う唇と舌の動きだけで私に更なる快楽を求めさせる
そして彼の腕に抱かれて眠りに落ちる
「今日はかなり余裕を持って到着したね♪」
「いつもお前の支度が遅いからギリギリなんじゃねーの?」
「うっ!梁は全然わかってない!女の子の朝は戦場なんだよ〜!」
「あーそうかよ…なぁ時間あるなら合わせないか?」
「うんっ!」
私がねだるのはショパンの曲
梁が奏でる幻想即興曲は好きだ
意識を一気に持って行かれる出だしから優雅な中盤…
梁の演奏に誰もが夢中になってしまうのではないかとも思う。
「梁〜もっと弾いてよ〜」
おねだりをしながらも練習室で交わす口付けは
誰かに見られるかもしれないというスリルを伴っていつもとは違う新鮮さがある。
こんな幸せな時間がずっと…ずっと続くと
そのときの私は信じて疑わなかった