Point of No Return〜戻れない路〜







〜香穂子side〜


付属の大学に進学した私。


それからも月森くんとは少しづつ連絡をとっていた


だけど彼からの返信はいつも遅くて
日に日に間隔が空いていく…

音大にはやっぱり小さい頃から習っている人ばかりで私はいつも不安だった


月森くんから教えてもらっていたとはいえ
拭いきれない経験の差を感じた



いつも感じる不安、焦り



必死に練習しても追いつけないような
そんな恐怖でいっぱいだった

“ヴァイオリンが好きだから”

そんな理由でここまで来てしまったけれど

自分の選択は間違いだったのではないか


音大に来てしまった以上、普通のOLになるなんて
なんか負けた気がする
プロになるからと親にも宣言してしまった
もう後戻りできない…



…………恐い



そんな私の不安を拭ってくれたのが、梁だった






「何シケた顔してんだよ?」

優しく笑って大きな手で頭を撫でてくれる

「今度、コンクールに出ることになっちゃって…」

「へぇ〜すげーじゃないか」

「うん…だけど何弾けば良いのかわかんないし…」

「じゃこれなんてどうだ?」

私が好きそうなかわいい曲の楽譜をいくつも並べてくれる


「決められなきゃ、俺が選んでやるよ。とびっきり難しいやつをな」

そうやって笑ってくれる

周囲からの嫉妬と自分の技術に限界を感じていた私を救ってくれた

高校の時は何でも相談できる良き男友達

それがだんだんと変わっていくのを感じる



厳しい音楽の世界で生きていくのに 彼は私にとって欠かせない存在になった


次へ

前へ