Point of No Return〜戻れない路〜







〜香穂子side〜

授業の音楽史は本当に退屈で思わず眠くなってしまう




―「君は音楽に対する真摯な気持ちがないのか?」


ふと、あの人の言葉が頭を過ぎる







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階段を駆け上がり屋上に向かってドアを開ける

「香穂子」

あの人は優しく微笑む

「今日はこの曲を弾こうと思う。
 そろそろ君はこれくらいのレベルの曲を弾けなければダメだ」

まずはお手本と言って彼が奏でる調べは本当に美しい
精練潔白な彼が奏でているからかもしれないけれど
音色に何も曇りがないストレートな音


「さあ君の番だ」


私の間違いを直してくれる

「そこはもっと早く弾かないと、次が遅れてしまう」

厳しいけど優しい彼の指導




「月森くん」

練習が終わると私は決まって彼に抱きついていた

「香穂子…///その…ここは屋上だ///」

彼は頬を赤く染めながら少しうろたえる
普段の彼からは想像つかないそんな姿がかわいい

彼が優しく口づけしてくれる



私と彼のことは秘密だ

彼は騒がれることを嫌うし
天才ヴァイオリニストの月森蓮と
コンクールで優勝したとはいえ普通科の私が付き合ったとなれば
嫌がらせも増える


お互いの意思で秘密にすることにした


週一回の学校での合奏と
週末の月森くんの家での練習…


限られた時間の中ではあったけど、彼と過ごした時間は特別なものだった
私をヴァイオリニストとしてここまで育ててくれたのも
彼の指導があったからだと今だに思っている



「別れよう」



卒業を間近に控えた2月に彼から突然言われた

「…え?…どう…して?」



私には訳がわからなかった

正直私たちは上手くいっていたと思う
急に何故…?


「卒業したら俺はドイツに留学する。
 ヴァイオリニストとして成功する保証はないし、
 日本のように安全とは言いきれない
 それが理由だ」



彼らしいといえば彼らしいけど…待ってろって言わないの?


なぜ…?


「…わかった…向こうでも頑張って…」


心とは裏腹にそんな言葉を口にしていた
彼から言って欲しかった


待っていろと


そして

私たちのヴァイオリンロマンスは終わった

桜が散りゆくように私の恋は終わった



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