Point of No Return〜戻れない路〜







〜梁太郎side〜

俺は香穂の後ろ姿を見送りながら練習室へと向かう

俺と香穂が暮らして2年になる


俺の両親はともかく、香穂の親も納得してくれたことは嬉しく思う


まあ、あいつが1人の方が不安だったらしい
だけど俺を信用してくれたことは事実だ


まだあいつには言ったことはないけど、俺はあいつと結婚したいと思ってる
あいつの親に挨拶に行く前に決めていたことだ。

あいつはどう思っているか知らないが
俺にとってはそれくらいの気持ちで一緒に住もうと言った

高校の時から想い続けた気持ちが通じたことが素直に嬉しい








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大学に進学してからも香穂への想いは変わらなかった
あいつ以上に好きになることはないだろうと思ってた

友達の位置でも傍にいられるなら
それで良いだろうと思って代わりの女と何人かと付き合った
ただ身体だけを重ねて…
所詮、俺の欲求を満たすだけに過ぎないし正直誰でも良かった




「はい、これラブレターだってよ。土浦くんモテモテだね〜」
香穂がニヤニヤしながら近づいてくる


「ああそうかよ…適当に返事しといて」

「ちょっと〜!それじゃ私が困るんだけど!!」


―そんなの知るかよ…お前だって俺の気持ちをわかってないだろう…?


俺が不機嫌になったことを察してすかさずこう言う

「ねぇ、久々に合奏しようよ」


あいつとの合奏していると気持ちが落ち着く
香穂が奏でる音は俺の心を柔らかく包んでいく


「いつも思うけど土浦くんのピアノって
何か片思いしてるみたいな切な〜い気持ちになるの。私は好きだけど?」

鍵盤に置いた手がビクっと震える


―そうだよ…俺はピアノの調べにのせて、お前に想いを伝えているのかもしれない


グランドピアノにぼんやりと映る自分の姿を見つめる


そこには今の親友とも言える男友達のポジションを失いたくないだけの俺がいる…
本当に好きな女に気持ちを伝えることもできない臆病な俺が…



それから俺は誰とも付き合わなくなった
身体を重ねても満たされるのは一瞬で何も生まない…
快楽という煩悩しか満たされないからだ



それから半年後のあの日…俺たちは結ばれた


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