〜梁太郎side〜
練習室での香穂の大胆な行動には驚いた
あいつは普段からそういうことは自分から言い出さない
“押しつぶされる”って言ってたからきっとコンクールの緊張が相当なんだろう
――今夜はあいつの好物でもつくってやるか
俺はスーパーへと向かう
「ちょっと〜香穂のダンナじゃない!」
振り向かなくてもわかる…このバカでかい声
「なんだよ…天羽。そのダンナってやめろよ」
高校の時、報道部だった天羽はその時から香穂の親友だった
サバサバした物言いとかは良いが、どうも俺は苦手だ
「良いじゃない。間違ってないでしょ?
あら〜手作り料理?相変わらずお熱いことで。」
「っるせぇ!///お前、からかいに来たのかよ!」
「違うわよ。若手コンクールがあるって聞いたら香穂の心配と激励!」
天羽は真面目な顔になるとこう続けた
「しかも、月森くんも出るらしいじゃない?
そのために帰国したんでしょ?二人の仲も気になったし。」
――は?
「でも、その様子じゃ大丈夫みたいだね〜うん、安心したよ。じゃあねん〜」
俺は去ろうとする天羽の腕を強く掴んだ
「二人の仲ってなんだよ?」
「えっ……」
「俺と香穂の仲のことかよ?それとも……月森とか?」
俺の脳裏にはあのG線上のアリアが流れている
寸分の狂いもなく息の合った寄り添うような合奏が
天羽は青ざめた顔でしばらく考えていると観念したように口を開いた
「あー香穂が打ち明けてないと思わなかったよ。
だけど、そうだね。言いづらいのかもね。
まぁ、土浦くんは勘が良さそうだし、隠し事できなそうだから、私から言うわ。
月森くんと香穂は付き合ってたの。
だけど、月森くんの留学と共にそれも終わり。彼は待ってろも言わなかったらしいよ。
香穂もそれで吹っ切れたんじゃない?
私が心配したのは月森くんのことで二人が気まずくなってないかなってこと。」
天羽は早口で経緯を説明するとこう俺に釘を刺した
「あんたも過去に女と結構付き合ってたんでしょ?だから香穂のこと責めないでよね!」
「あぁ…わかってる」
俺は天羽と別れ、自宅に戻った
香穂が月森と付き合っていた
俺が抱いた時、香穂は初めてじゃなかった
だとしたら月森と…
俺の中に言いようのしれない不快感が押し寄せる
俺が香穂に思いを寄せてた時も、あいつは香穂を抱いてたってことかよ
それで自分の夢のために簡単に捨てたってことか
涼しい顔の月森にバカにされているように感じる
「くそっ!」
俺はテーブルに手を叩きつける
香穂は?香穂は何を考えてる?
吹っ切れたなら、なぜあんな演奏をした…?
俺はずっと傍にいるのに香穂を初めて遠く感じた
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<あとがき>
とうとう土浦くんにバレてしまいましたね……(自分で書いたくせに他人事)
ここから揺れますどんどん揺れます!!!!