マイ・フェア・レディ
香穂子に調教を始めて一年が過ぎた
見違えるほどに変わったと思う
我ながら頑張った
立ち居振る舞いに気品が感じられる
テーブルマナーも教え込んだし
茶道も華道から香道に至るまで教えた
バレエで姿勢を正した
だけど
まだ何かが足りない…
そうだ…音楽…
やはりピアノだろう
「ピアノ…か…」
ピアノにはあまり良い思い出がない
昔は俺もピアノを弾いていた
しかし祖母から兄たちもやっているからと禁止された
上の兄たちを越えることは許されない
「全く…なんなんだよ…」
俺は自嘲的に笑った
だけど良いかもしれない
香穂子を通して俺のできない
ピアノを弾かせるのも
そんな時だった
「梓馬!これ見て」
香穂子が持ってきたのはヴァイオリンだった
何でも昔、香穂子の祖父が使っていたものらしく
手入れをすれば、十分使える
「昨日、少しおじいちゃんに教えてもらったんだ〜」
香穂子が自慢げに弾きだす
初めてにしては悪くないかもしれない
素質が感じられる
天才を感じるのも天才だけの特権だろう
ヴァイオリンにはそこまで詳しくないが、
少しぐらいなら教えてやれる
ピアノからヴァイオリンに変更だなと一人思った
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