マイ・フェア・レディ
次の日、香穂子は時間通りにやってきた
今日教えるのはテーブルマナー
相変わらず…マナーのマの字もわかってない奴だ
「違う!音を立てるな」
ピシッ
容赦なくデコピンをくらわす
「いたいー;」
「嫌なら覚えろ!!」
一通り終えると香穂子はこう言った
「先生は、今日はフルート吹かないの?」
どうやら名乗らない俺に対して
先生と呼ぶことにしたらしい
「…今日はあまり気分じゃない」
「ふーん…先生は気分屋っぽいもんね〜」
「お前ごときが俺を語るな」
ピシッ
「いたっ;」
―梓馬くんはいつも落ち着いているね―
上辺だけの俺の評価はこうなのに…
完璧な優等生が俺だというのに
柔軟性があるのかもしれないが
何でこいつ“俺”を易々と受け入れて
“俺”を理解していくんだろう…
その後、数時間かけて教え込んだ甲斐があってか
なんとか彼女はマスターした
かなりクタクタになっている様子だが…
「じゃ…じゃあ先生、私はこれで…」
「………梓馬」
「え?」
「俺の名前
お前より一つ上だ
土曜日の10時にここで
先輩を待たせるなよ?」
彼女は栗色の瞳を大きく見開くと
すぐ笑顔になった
「うん♪
梓馬、またね」
香穂子に名前を呼んで欲しくて教えた
何故だかわからない…
彼女の口からそう呼んで欲しかった
笑顔で名前を呼ばれて何だか
俺はくすぐったかった
「梓馬、お待たせ♪」
「………ラフだな」
「普通じゃない?」
トレーナーにデニムのミニ
別に普通だと思う…
あ、俺様には通じないのかな…
「まぁ、一般だったらそんなもんかもな
でも俺の好みじゃない」
と言われて洋服屋に直行
ワンピースに着替えさせられた
「お前、練習着とかあるか?」
「は!?何の?」
「まぁ良い…行くぞ」
梓馬に連れて行かれたのは
ダンスショップ
えええ???
なに?社交ダンスするの??
「試着しろ!」
水色のレオタードを渡された
一通り揃えると(梓馬のお金で)
連れて行かれたのはバレエスタジオ
「じゃあ、お願いします」
梓馬はいつもと全然違う超優等生フェイスで
にっこり笑って私を先生へと引き渡した
バーにつかまって柔軟やら何やら…
キツいんですけど〜!!
「う…もうできません…」
汗だくで、ぐったりの私に歩み寄る俺様
「バレエは姿勢を矯正するのに良いんだよ
淑女の嗜みとしても良いしな」
心の中で「淑女って??」という疑問が湧いたけど
俺様に伝える体力は残ってない
そしてそんな私に、俺様はこう言い放った
「これから週一でここに通うように。
サボったらすぐわかるようになってるからな!」
ええ〜っ!!
今日だけでも辛かったのに週一で…
とゆーか梓馬は一体何者なの??
次へ
前へ
|