マイ・フェア・レディ
香穂子をどんなに愛しても愛しても…愛し足りない
もっと俺を刻みつけたい
俺なしでは生きられなくしてしまいたい
お前は俺のどこに価値を見出してる?
柚木という肩書か?
取り巻きが騒ぐ外見か?
わかっている…香穂子がそうじゃないことも
俺自身を好きでいてくれることも
だけれど俺は不安になる
お前の心を疑ってしまう
お前のことを愛しているから
絶対に失いたくないから
「ぐすっ…っ…」
隣で香穂子の泣き声が聞こえる
俺に背を向けて声を殺して泣く姿にイライラした
俺は起き上がって香穂子をこちら側に向かせる
「何がそんなに悲しいんだよ?」
とても透きとおっていて涙が、頬を伝っていく
穢れを知らないようなその瞳もイライラする
「梓馬…梓馬は本当に私が好き?」
何故そんなに純粋でいられるんだろう
お前も汚れてしまえば良い
俺に汚されれば良い
淫らに俺を求めれば良い
俺はこんなに他の男に嫉妬しているのに
俺は無理やり香穂子の体に俺をねじ込んだ
「ぁっ…も……やだっ…」
香穂子が泣いて俺に訴える
もっと俺を刻み込んでやる
片時も忘れられないように
次の朝、香穂子は頭まで布団をかぶりベッドの中で泣いていた
初めての時と同じだ
お前はいつまでも変わらない
俺を純粋に想う気持ちも自分自身の純粋さも
こんなことなら、俺の女としての教育なんてするんじゃなかった
――「せっかく同じ高校に来たのに全然嬉しくないんだ?
梓馬が喜ぶと思ったのに!」――
入学してきた時にあいつはそう言った
その時は親衛隊のこととかを考えて注意した
だけど、今なら思う
そのままにすれば良かった
――梓馬のために――
この言葉をずっと言わせておくべきだった
相手のためと言いながら自己満足にすぎないこの言葉を言わせて
俺に縛りつければ良かった
そうすれば、あいつも俺と同じこの闇に連れていくことができたのに
相手を愛してるがゆえの心の闇に
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<あとがき>
梓馬くんの自分との闘いの日々は続きます。
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