マイ・フェア・レディ












梓馬の気持ちがわからない…


私と恋人通しであることをあんなに隠したがってたくせに



屋上で練習しながらも
私は4年もの付き合いになる彼の真意が計れなかった


確かにボロを出したのは私だけど…
“遠い親戚なんだ”とかでも良かったと思う



屋上のドアが開いた

『きっと梓馬だ』

そう思った私は勢いよくその人物に抱きついた


「っ!日野さん…」


梓馬と違う香り…


私が顔を上げると、困惑した月森蓮がいた


「げっ…じゃなくて、ごめん」


何かしらの非難の言葉が来るだろうと、私は彼から離れる


「君はそういうのが癖なのか…?」

口元に手を当てながら頬を染めて私に尋ねた



「癖ってゆーか、ちょっとした手違いで…」


「大した手違いだな…」


「だから、ごめんってば」


ふと、月森くんの手元を見るとヴァイオリン関連の本が見えた


「それなに?」

「ただの楽典だ」


横を通り抜けてベンチに座り読み始める

私は彼の隣に座って、楽典を覗き込みながら言った


「月森くんはいつからヴァイオリン始めてるの?
 どうしてやろうと思ったの?」

「そんなこと、君には関係ないだろう?」


うっ…出た、冷たい目線…

「そうかもしれないけど。
 ちなみに私は、好きだったからだよ
 一目惚れっていうのかも」


「一目惚れ…?」

呆れたのかな…
月森くんが変わったものを見るような目で私を見た



「君は好きだからヴァイオリンを弾いているというのか…?」


一種の嫌悪に似た表情をして私を見つめた


「そ…そうだけど…」

私はその月森くんの勢いに後ずさりする




「そんなに苛めないでくれるかな?」


声がする方を見ると、優雅に佇む梓馬がいた


「日野さん…、いや香穂子は少し変わってるんだ
 君から見たら不可解かもしれないね」


梓馬が私の方へと歩み寄る


「だけど……僕にとっては大切な人だから
 そんなに香穂子を苛めないで…ね、月森くん」


月森くんに微笑みながら話しかける


梓馬が私の方を向くと、

「そうだ……帰りは教室に迎えに行くよ。
 いい子にしているんだよ」


私の髪をさり気なく撫でるとゆっくりとその場を立ち去った


その時に見せた梓馬の微笑みが何故か怖かった










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<あとがき>
柚木さまが段々と恋の渦にハマっていきます〜




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