マイ・フェア・レディ










人間、無知とは恐ろしい


香穂子が今、「おじちゃーん」などと頭を叩いてるのは前総理大臣だ

こういう接待に慣れている俺でも、この顔触れには正直驚いた


松平天龍が言っていた“親密な友人たちだけでの会食”



政財界の大物しか揃っていない…
たじろぐ気持ちもあるが、好きな女の前で余裕のない姿なんて意地でも見せてやらない

香穂子の前ではいつでも余裕のある俺でいたいから
伊達に“外”の顔を培ってきたわけじゃないんだ



だけどその必要はなかった


何故なら、外向きの俺より俺自身でいて良かったから…




「疲れた?」


ロビーのソファーに座っていると香穂子に尋ねられる

「いや…嬉しかった…」

香穂子の胸に顔を埋めて優しく抱きよせた


「あ…梓馬?///」

人目も憚らず甘えだした俺に香穂子は動揺しているようだった



「早くお前を抱きたい……」


「なっ///どうしたのよ今日は!?」

耳元でそう囁くと香穂子は顔を真っ赤にした


「いいだろ?たまにはこんな俺も
 それとも不満なわけ…?」

「結局、根本は同じじゃない?」

香穂子が俺の腕に手を巻きつける

「でも……そんな梓馬が…好きだよ…///」


パッと離れると「お見送りしてからね」と
会場に戻っていった



今までにはなかった反応だ…

香穂子がどんどん“女”になっていく…

俺のもくろみ通りだし、男としては嬉しい


だけど、なんだこの言い知れない焦燥感は……

何とかしてもっと縛っておきたい気持ちになる

お前が本当に若紫なら、俺以外の男に見られることもないのに……


「余裕がない俺なんて…」

誰に言うわけでもなく思わず呟いていた


家のことも何も解決していない

祖母のあの様子からすると、帰ったら説教なんだろうな

根掘り葉掘り、あいつとの関係を聞かれて反対されて……

結局、欲しいものは手に入らないのか…


最初は、誰かの人生を操りたいだけだった
香穂子を駒にして俺は高みの見物をしたかった…

だけど、俺好みになって…それだけじゃなく…
あいつの魅力にハマって…


もう引き返せない


誰も愛せない


だけど、俺は引かれたレールを進むしかない


こんなに望んでも手に入らない



俺は誰かにあいつを渡せるのか……?



「余裕がない俺なんて…」

再び言った言葉は深く俺の心に響いた








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<あとがき>
くわ〜〜〜っ///かっこいい!!!
魚月的にこういう柚木さま大好きです!!!思わず抱きしめたい!!





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