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マイ・フェア・レディ










「梓馬さん、一体どういうことか説明してもらいましょうか?」

俺は香穂子だけを部屋に残し、祖母と隣の部屋に移動する


「お祖母さまのご覧になった通りです」

「理解ができません」

祖母の眉が一層顰められる


「あなたは柚木の家の人間なんですよ?
 西園寺家の御令嬢との縁談もあがっているのも知っているでしょう?」

「……はい」

「どうしてその縁談があがったか教えてさしあげましょうか?
 西園寺家の御嬢さんがあなたを見初められたのですよ。
 こんなことをして万が一耳に入ったらどうするつもりですか?
 それに柚木の家の名を汚すことになるのをわかってるのですか?」




「梓馬は悪くないんです!」

素早く着物を整えた香穂子が出てきた


「違うんです。私が梓馬に付きまとっているだけなんです!」

「香穂子!」


祖母が納得したというような顔を見せる

「そうでしょうねぇ。
 あなたのような下品なお嬢さんを柚木の人間が相手にするわけないですから」

俺が乱した髪がパラリとうなじにかかる

緊張で紅潮した頬と唇の香穂子を見ると
こんな状況にもかかわらず色っぽいと思ってしまう


「そんな男を誘うような紅い髪…汚らわしい」



――汚らわしい?



香穂子は大きな瞳に涙をいっぱいに溜めている


俺は彼女を抱きしめた

「彼女にそんなこと言うのはいくらお祖母さまでも許せません。
 それに彼女が汚いというなら、そうしたのは僕です」

「梓馬さん!」

「彼女は僕しか知らない…いや…後にも先にも僕だけだ…」



部屋の襖が開くと着物を着た青年が現れた


「お嬢さん探しましたよ。
 もう始まります。先生が心配されてますよ。」

「もうそんな時間?今行きます。」

香穂子は俺に「ごめんね」と言い祖母に一礼すると部屋を出て行った



「梓馬さん、許しませんよ」




俺は祖母を一瞥すると冷静になった頭で会話を始めた


「お祖母さま、
 お祖母さまは先ほど、お世話になっている方々が
 多くいらっしゃる展示会だとおっしゃいましたね?
 だとすれば、
 そのお世話になってる方々が集う展示会の主催者は相当な人物ということでは?」

「あなたが言わんとしていることはわかりますが、
 それと何の関係が?それに展示会の主催者には直接柚木家は関わっていません。」

「まぁ…柚木家に影響を及ぼす人物だということを胸に留めておいて頂ければ
 僕は十分です」


笑みを浮かべている俺に祖母は怪訝な顔をした


だがそれが驚愕に変わるのも時間の問題だろう





「本日は私の春の新作発表会にお越し頂きまして誠にありがとうございます」

舞台上で松平天龍が挨拶をしている

会場には政財界の大物から文化人まで多彩だ


「僭越ながら今回は特別に私の孫娘の処女作も発表させて頂きます」

香穂子が舞台にあがる


「孫の香穂子でございます。それでは恐れ多くも私の作品を発表させて頂きます」


現れたのはノウゼンカズラの柄が一面に散りばめられた深緑の着物だった


「これは私をいつも支えてくださってる方に捧げたいと…思います///」

香穂子がはにかみながら俺の方を見つめる


ノウゼンカズラ…俺の名前の一字“梓”の語源ねぇ…

あいつがこんな乙女ちっくなことをするとは思わなかった

まぁ…悪くない





一通りの挨拶を終えた松平天龍と香穂子が俺の前に現れた


「梓馬くん、この後私の親密な友人たちだけで会食があるんだよ。
 君もこないか?」

「ええ。ゼヒ。」

香穂子が「大丈夫なの?」と聞いてくる



「それでは梓馬より、長男である一馬をお連れ下さい」

祖母が口を挟む

「私は梓馬くんに言ってるんです。」

「それは困ります。梓馬は三男ですし、
 柚木家の代表として行かせるわけにはいきません。」


松平天龍が厳しい目で祖母を見つめる

「私は柚木家の代表に来てほしいんじゃない。
 彼に来て欲しいから言っているだけだ。」

祖母に詰め寄る

「彼が柚木の人間だから言ってるんじゃないんですよ。
 私は梓馬くんを気に入ってるんだ」


さすがの祖母も松平天龍の威圧感にたじろいだ


「おじいちゃん、ちょっと落ち着いてよ」


祖母が香穂子を凝視する


「あ…貴女は…」

「あっ…先ほどは失礼しました…」

香穂子がペコリとお辞儀をする

俺は祖母の驚いた表情を観察する

珍しいねぇ…こんなに動揺するなんて…

正直、少し面白い


「香穂子、この方は?」

「えと、梓馬のお祖母さまだよ」

香穂子が松平天龍に説明する


「これは…失礼しました。
 梓馬くんにはいつも孫がお世話になってます。」

「い…いえ…」

「ということで、梓馬くんをお借りしますから。」

松平天龍に押し切られた祖母は何も言えなくなっていた

「じゃあ後ほど、お伺いします」

俺は松平天龍に笑顔で応えた

もちろん“俺”の笑顔で








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<あとがき>
いや~っ良かったって解決してないし……。
とりあえず、この場は乗り切りましたが…
というか今回甘くなくてごめんなさいです(><)




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