マイ・フェア・レディ
「え!?香穂子ちゃんとお付き合いすることになったの?」
雅が驚くのも無理はない
つい最近知り合いだったことで驚かせたばかりなのだから
「そうなんだ…親友の雅ならわかると思うのだけれど香穂子さん
…いや、香穂子と一緒にいると自然と落ち着いてね…
それに、僕の自慢の妹の雅と親友だったなんて運命としか思えなくてね…」
「ええ。そのお気持ちわかるわ。私嬉しいわ♪
だってお兄さまも香穂子ちゃんも大好きですもの
今までのお兄さまの婚約者候補よりも香穂子ちゃんの方がずーっと良い。
私は大賛成よ」
親友と兄が付き合ったという事実の上
雅は俺が放った“運命”という言葉にときめいているらしい
いささか、興奮気味だ
「それに私、香穂子ちゃんと接していてお兄さまの好み通りの方だなって思ってたの。
言動も所作も、お洋服も…まるで画にかいたように…
本当にお似合いですわ」
それはそうだろう…
俺が俺好みに仕上げたのだから
「きっと二人が知り合いでなくても私が紹介していたでしょうね」
こう続ける雅に俺はためらいがちに口を開いた
「だけど、まだお祖母さまには内緒にして欲しいのだけれど…」
それを言っただけで妹には全てがわかったらしい
「もちろんわかっていますわ。
それにアリバイなども私にお任せになって」
俺は心強い味方を陥落させた
これで自由に香穂子の所に行き来できる
もちろん、泊まりでも…ね?
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「雅ちゃん…すごい人の数だね」
「それは文化祭ですもの
早くお兄さまの教室に行きましょう♪」
今日は梓馬の高校の文化祭
雅ちゃんと二人でやってきた
それにしても雅ちゃんは本当に美少女
みんな振り返って見てるもん
ウェーブの豊かな髪に少し気が強そうな目
それでいて愛らしくて
女の私でも憧れるんだから
男の人は放っておかないんだろうなと思う
それにしても香穂子ちゃんは本当に可愛らしいわ…
さっきから男の方が振り返って見ていますもの
今日はアップにしているストレートの朱色の髪
くりんとした大きな瞳
そう…小動物みたいで抱きしめたくなります
お兄さまの周りの女性と違って厭味がないし、親しみやすいから
老若男女問わず、好印象を与えるわ
さすが、お兄さまが選んだ方だわ
香穂子ちゃんに私のお義姉さまになって欲しい
「ねぇ君たち、俺たちと一緒に周らない?」
私と雅ちゃんは突然行く手を阻まれた
「周りませんわ!」
雅ちゃんがキッパリ言い放つ
「聖蘭女学院の制服だよね?
わ〜お嬢様って感じだし二人とも、すげー可愛いね
良いじゃん、少しだけでも周ろうよ」
「無理ですわ
そこをどいて頂けませんこと?」
雅ちゃんはどこまでも毅然とした態度で振舞う
あぁ…こんな時どうしたら良いんだろう
梓馬に教えてもらってないし
私はオロオロして心配そうに雅ちゃんを窺う
瞬間、私はもう一人の男子生徒にいきなり腕を掴まれた
「君、俺のタイプ
番号だけでも教えてよ?」
えぇっ!?
その手を雅ちゃんが払いのける
「何をなさるの!
お兄さまが知ったら許さなくてよ!!」
「こらこら雅、どうしたの?」
黄色い悲鳴と多数の女子生徒に囲まれながら梓馬が登場した
「お兄さま!登場なさるのが遅いわ!
香穂子ちゃんがあんなことされたのに!」
いや…腕を掴まれただけだから…
ってたいしたことないよね?
わ…わからない…
だけど男の人に触られるのとか初めてだから少し怖かったけど
って梓馬は…?
梓馬には触られても怖くないし…
嫌じゃないし…
うーーん…
黙ってる私を見て梓馬と雅ちゃんが心配そうな顔をする
「大丈夫かい?」
梓馬にそっと頭を撫でられた
すごく落ち着く…
「あっ柚木柚木〜!たこ焼き買ってきたから食べよーよ」
人懐っこそうな人がバタバタと走り寄ってきた
途中で何度も転びそうになってる
梓馬の友達…なのかな??
「あぁ火原、紹介するよ
妹の雅と、友人…の日野香穂子さんだよ」
「初めまして」と雅ちゃんと私が挨拶すると
火原さんは顔を真っ赤にしながら自己紹介してくれた
火原さんはトランペット専攻で梓馬とは仲が良いみたい
雰囲気も性格も正反対って感じだけど…
「へぇ〜じゃあ香穂ちゃんと柚木は幼馴染みたいなもんなんだ」
「う〜ん…そうじゃないですか?」
私は適当に相槌を打つ
だって私と梓馬の関係なんて私自身が一番よくわかってない
この前は恋人って言われたけど…
この間までは玩具だったし…
「香穂子、雅、僕たちはこれから演奏会があるんだよ…
良かったら聴いていくかい?」
梓馬がよそ行きの顔で話しかけてくる
「うん」
「じゃあ、お姫様たちはこちらにどうぞ」
私は背中に悪寒が走った
はい?
お姫様?
今日の天気は大雨になるんじゃないかと思う…
梓馬たちのクラスの演奏会はとっても楽しかった
クラシックから今流行りの曲までを扱っていたし
何より私の荒削りな音楽とは全然違っていた
私もきちんと音楽を勉強したいと思わせられた
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香穂子と雅を車まで送ると俺は教室へと引き返した
「それにしても柚木の妹すっごい美少女だね」
教室の片付けをしながら火原に話しかけられる
「そう?」
まぁ…俺の妹だからな
「それに…香穂ちゃん…あの子もすっごいかわいいね!
話しててドキドキしたよ///」
「え…?」
火原が動揺していることはわかっていたけど雅じゃなくて香穂子に…?
「なんか俺、変だよね?」
パッと見て目を惹くのは妹の方だ…
なのに、香穂子が良いのか?
俺の胸がざわつく
火原の無邪気な笑顔が俺の心に波紋を起こす
「そんなことないよ…香穂子は可愛いよ
だけど、ダメだよ火原?
香穂子は僕の恋人だから」
「えぇっ!」
火原は驚きで絶叫している
ダメだよ…好きになっちゃ…
あいつは俺だけの若紫なんだから
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