マイ・フェア・レディ
「お前と雅が友達とはな…」
「私もすごい驚いたよ!
わからなかった…だって梓馬、苗字言わないんだもん!」
「普通、わかるだろ。
しかも、菓子にばっかり夢中になるな!」
「いたっ;」
そうデコピンをくらわされる
私の部屋に上がるなり梓馬は俺様モード全開だ
昨日の王子っぽい顔はどこに…
「そういえば高校、どうだった?音楽科どう?何か面白そうだよね」
「……別に…退屈だよ」
梓馬は気だるそうに髪をかきあげる
「…膝」
そう言って私の膝の上に頭を乗せると目を閉じて眠りに就いた
寝顔も整っている。うん、隙がない感じ。
改めて綺麗な人だって思う
身長も私と同じくらいだし美少年というより美少女とも言える
普通の女の人より綺麗
雅ちゃんも美少女だけど梓馬も負けてない
まぁ梓馬は女の子じゃないんだけど…
マジマジと顔を見ながら梓馬の頬に触れてみる
すべすべ…
肩にかかるほどの長さの藍色の髪
サラサラだぁ…
「何?」
「うわっ、寝てたんじゃないの!?」
「お前が誘うから、起きてやったよ」
そう言ってキスされる
何度も何度も
梓馬はこういうことが当たり前なのかな…
私は頭の片隅でぼんやり考えた
はぁ…憂鬱だ
高校でも完璧な優等生「柚木梓馬」を演じたため
今日も取り巻きが尽きない
それも…今日は特に
「柚木さま、明日がお誕生日だそうで…
明日は土曜日ですのでこちらをと思いまして…」
「ありがとう…そんな気を遣わなくても良いのに」
そう言って女の趣味であろう貢物を渡される
俺の誕生日なんて情報どこから仕入れてきたんだ?
不愉快極まりない…
明日は誕生日パーティという名の退屈な集まりが繰り広げられるし…
この夏の暑さと同じくらいウザい
こういう日は…そう
玩具をからかうに尽きるな…
俺は香穂子の家へと向かった
♪〜〜〜
フォーレの“夢のあとに”か
香穂子は日に日に上達している
ヴァイオリン教室に通ったが突然アイデアが浮かんで
練習にならなかったとかで彼女は独学で勉強している
「悪くないね」
「梓馬、来てたの?」
「お前、鍵くらいちゃんとかけておけよ?
泥棒に入ってくれって言ってるようなもんだ」
「はーい」
いつ来てもここは落ち着く
窓から入ってくる陽の光や部屋に広がる香りが芳しい
「梓馬、今日はこの間、買ってもらった服きてるんだ♪」
白いキャミソールワンピース
よく似合ってる
清楚なのに彼女の女性らしさをきちんと主張していて
本当によく似合ってる
一回転してみせる香穂子を後ろから抱きしめた
右手で香穂子を捕まえたまま
左手で彼女の体のラインに沿って手を滑らせる
太ももからヒップ、ウエストライン…おもむろに膨らみを揉みしだく
俺の手には余る大きさだ
柔らかくて
そう…変な気持ちになってくる
「梓馬…?」
香穂子は何が何だかわからないといった様子だ
それで良い…
俺は彼女の首筋に肩に舌を這わせる
「梓馬、どうしたの?」
そうだ
どうしたというんだ俺は
玩具にこんな感情を抱くなんて
どうかしている
俺は香穂子から離れた
「別に…どうしもしない…何となくだ」
「…ふーん…なんだか難しいんだね」
それにしてもこいつは何で嫌がらないんだろう
いや…意味がわかっていないのかもしれないな
だから難しいなんて表現したんだろう
それとも、感じてないのか…?
俺自体、この感情がよくわからない
からかいに来たんじゃなかったのか
これじゃ持ち主の俺の方が翻弄されている
本当に何をやっているんだ…
「そうだ、はい梓馬にプレゼント」
「え?」
「誕生日、明日なんでしょう?それでパーティーなんでしょ?
雅ちゃんが言ってたよ♪おめでとう♪」
「あぁ…ありがとう」
取り巻きへの対応と家のパーティーのことであんなに憂鬱だったのに
香穂子の一言で全て消えた気がする
中を開けると白百合と紫の蝶モチーフの青い万年筆が入っていた
「なんと、私の初創作です♪
梓馬と私をイメージして作ってみました」
白百合が梓馬で、蝶が私ねと説明してくれた
袋にはあともう一つ箱が入っている
「鍵…?」
「うん、ここの合鍵。
いつも鍵しめろって言うから梓馬に閉めてもらおうと思って」
「は?」
本当にバカ…
だけど、本当に可愛いな…
俺は否定できない感情を確信して香穂子を抱きしめた
――愛しいと思う気持ち――
「仕方ないから、お前を恋人にしてやる」
きょとんとした顔で香穂子は俺を見る
香穂子に拒否権はない
どうやら俺は俺の若紫にハマったようだ…
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