『お前さ……欲求不満なんじゃないの?』
――違う…先輩が望んだから
『愛されたい…?愛情という名目で俺を拘束するな
俺の心を縛れるのは俺だけだ』
――違う…束縛なんてしてない…好きだから役に立ちたかっただけ
『ちゃんとやれよ…俺に愛されたいんだろう?』
わからない…先輩が……
愛されたい…好きだから先輩に望まれることをしたい
それが拘束しているの…?
今まで先輩の言う通りにしてきたのも
先輩がそう望んだからなのに……
『そんなにヤりたいならさ…月森くんにしてやれよ?
それが俺からの命令』
――どうして?
『ハッ…俺に何を望んでるのかな?
言っただろう?命令だよ…
月森くんに教えてあげろよ…淫らなお前の姿をさ…』
――どうして?
わからない…先輩が……わからない……
頭の中がグラグラして私はその場にヘタリ込んだ
「………日野?大丈夫か?」
上を向くと目を逸らしながら月森くんが私に手を差し伸べてくれた
『月森くんにしてやれよ?それが俺からの命令』
あの人の言葉が頭の中を反芻する
「抱いて欲しいの…」
私は無機質な音でそう彼に伝えた
月森くんが驚いた瞳で私を見る
「しかし…君は柚木先輩と付き合っているのではないのか?」
そういう仲って何で知ってるんだろう…
違った…私は柚木先輩の彼女ではなかった……
月森くんの疑問すら自分を惨めにさせるものに感じられた
「付き合ってはいない……
それにこれは先輩からの命令だから………」
「命令……?」
「月森くんに淫らな私を見せたら先輩が私を愛してくれるんだって…」
今…私は感情を込めているのかな……
淡々とした口調ってこういうことを言うのかもしれない
「君は……君はそれで良いのか…?」
月森くんが真っ直ぐな瞳で私を見た
とても綺麗で引き込まれる瞳だ
「私……先輩が好きなの…先輩が望むことをしたいだけ…」
途端に月森くんに抱きしめられる
「俺も……君が好きだ……君のことが……本当に好きだ」
ぎゅぅっと抱きしめてくれる腕の力
「俺も君が望むならそうしたい……君のことが好きだから」
誰もいないからと月森くんの家へと連れて行ってもらった
彼は私を壊れ物を扱うように抱いてくれた
私は月森くんを好きじゃないはずなのに
彼が常に発する言葉に心が満たされる想いがした
“君が好きだ……大事にしたい”
先輩から言われたことがあったかな…
私の身体に夢中になる
月森くんの髪を撫でながらぼんやりと考えた
先輩の希望を叶えて…先輩に愛されたいはずなのに
月森くんとの行為が嫌ではない自分に
そんな自分にひたすら疑問を感じた
*****************************************
<あとがき>
今回は香穂ちゃん視点で書いてみましたvv
柚木に愛されたいからしたことなのに、何故か満たされる自分
本当に愛されるってどういうことなのか、香穂ちゃんの中で疑問が生まれています