君のトナリ







「月森!お前生意気なんだよっ!」

「ちょっとくらいうまいからっていい気になってんな!」


僕はヴァイオリン教室の帰りに上級生に絡まれている

こんな厭味…いつものことだ…

だけどコンクールに出場してからこのテのことが
段々増えてきた

僕だって別にコンクールに出たいわけじゃない…

だって出てもどうせ“月森”だから評価されるんだ

お父さんやお母さんの子どもだからって褒められるんだ…

もっともっと練習しなくちゃ…



この嫌がらせも黙ってれば過ぎる

早く帰って練習したい




「何だよ!澄ました顔しやがって余計に癪にさわる」

すると上級生が僕の指先を握りしめた

「二度とヴァイオリンを弾けなくしてやる」


握りしめられた手に力が込められる

――痛い


僕は怖さのあまりに声が出なくなった

このままじゃヴァイオリンが弾けなくなっちゃう…

指は大事にしなくちゃいけないんだ


―――誰か



「いってぇ!」


突然、上級生の手が離された



「コラ!あんたたち、なんなのよ!一人に寄ってたかって恥ずかしくないの!!」


石を投げながら女の子が叫ぶ


「みんなきて〜!!いじめてる人がいるの!」

女の子が呼ぶと

「どうしたの香穂子ちゃん?」と数人の女の子がやってきた


「くそっ覚えてろ」


上級生たちが走り去っていく…



「………ありがとう」



俺は小さな声で女の子にお礼を言った


「あ〜ヴァイオリン弾いてるの?私はねピアノやってるの」


「…………」


「おうちどこ?一緒に帰ろっか?」


「………うん」


香穂ちゃんは僕に色んな話をしてくれた

ピアノが好きなこと、今弾いてる曲が難しいこと、この間先生に怒られたこと


なんと香穂ちゃんの家は僕の家の隣りだった


「これからもまた遊ぼうね、蓮くん」


僕は香穂ちゃんが玄関に入るまで見送った


振り向いて笑顔を見せてくれた香穂子ちゃんを思い出すと

ほっぺが赤くなってきた

「……香穂子ちゃん」


僕は誰に言うわけでもなく呟いた



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