himawari








「和樹〜ごはんだぞ?」

「いらないって言っておいて」


兄貴が溜息をつきながら階段を降りていく音が聞こえる



「何も言う前に…失恋か…」



言葉に出したら情けなくて、オレは頭から布団を被った



――柚木先輩のことが好きだから


香穂ちゃんは確かにそう言ってた


ほっぺたをぎゅーーっとつねってみる


「いてっ!」


当たり前に夢でもなんでもなくて…

何やってるんだろ…ホント、情けないよ…

この間の合奏の時、オレ…香穂ちゃんが自分のこと好きなんじゃないかと思ってさ
それで浮かれて…ちょっとバカみたいだ


再びごろんっと横になって天井を見つめた


「でも…二人とも好きだから…ちゃんと…ちゃんとしないとな」


どんな顔して会えば良いのかわからない

だけど、オレにとっては柚木は親友だし…

柚木が香穂ちゃんのこと好きで、香穂ちゃんも柚木のことが好きで
だったらそれで良いんだ


うん、大好きな二人が一緒にいるんだから


そうだよ!何も悩むことなんてないんだ



「やっぱりオレ、ごはん食べる!」



いつものように兄貴とオカズを争って食べた









「普通に…自然に…」

さっきからこの言葉を何回繰り返してるんだろう

でも、オレの場合、何回も言っておかないと動揺しちゃいそうだし
香穂ちゃんと会っても、柚木と会ってもいつものように振舞うんだ


「普通に…自然に…」

「何が『普通に…自然に…』なんですか?火原先輩」

振り向くとおはようございますと言いながら微笑む香穂ちゃんに出会った

「うっわぁ!かっかっ香穂ちゃんっ!まだ早いよっ!」

「え?早いって…“おはようございます”がですか?」

「あっちがっ、いやっ、そう!じゃなくて違うんだけど」

言ってるそばから、この動揺っぷりってないよな…

「くす、変な火原先輩。音楽のことでも考えながら歩いてたんですか?
 普通に…自然に…って」

「あ、うん!そうなんだよね。ホラ、言わないと忘れちゃうし、
 柚木にもよく口に出した方が覚えやすいよって言われてたし」

無意識に親友の名前を出してしまったけれど、そのとき心にトゲが刺さったみたいに痛かった


「柚木先輩が…言いそうですね…」

「……っ。ごめん、オレ日直だった、先に行くね」


もちろん日直でもないし、遅刻するわけでもないのに学院までダッシュした

それ以上香穂ちゃんを見ていられなかった


――柚木先輩が…言いそうですね…――


そう言った時の香穂ちゃんのふわっとした笑顔とほんのりと赤い頬を
オレは見逃せなかった



「やっぱり…普通になんてできないよ…自然になんてできないよ…」


校舎裏でうなだれてるオレの頭上に予鈴が鳴ってたけど
そんなの全然聞こえなかった







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<あとがき>
久々の火原っち…大丈夫だったかなぁ…ドキドキ…
火原っちっぽく!と“はじめての気持ち”をガンガンにかけて書きました


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