★サイコ・ドラマ★










着衣を正すと先輩は長い髪を整えて私には振り向かず屋上を去っていく


私は自分の身体を抱いて空虚な思いでいた


あれが先輩の愛し方…


わからない…この想いが何なのかすら



制服を整えてボイラー室を出る

屋上の階段を降りると月森くんがいた


「君も…練習か?」


そういえば会うのはこの間…月森くんと関係した日以来だったっけ


「そんなところ…かな?」

曖昧に頷きながら
私は再びケースからヴァイオリンを取りだす


「日野…その…体は大丈夫だろうか…?」


「え?」


「いや…君に無茶をさせたのではないかと思って…
 俺は男だから…女性の体のことはよく…わからないから…」

月森くんが頬を赤く染めながら尋ねてきた

「大丈夫。何ともないよ?」


「そうか…それなら良いんだ…」

月森くんは私に微笑みを見せて“アヴェ・マリア”を弾いた


その清らかな音色と清らかな曲に私は涙が出そうだった


浄化されるような…

そんな思いがした













イライラする…この想いが何なのか俺にはわからない


いや…わかりたくない…


認めたくないんだ



「タイスの瞑想曲ですか…?」


「……へぇ、曲名ぐらいは覚えてたんだな?」


呼び出しておいた香穂子が練習室に顔を出した


「来いよ」


いつものように香穂子を押し倒す


制服のボタンに手をかけようとする俺の手を香穂子が制した


「もう……終わりにしたいんです」


「……なにが?」


「先輩に愛されたいって想いは私だけのエゴだってわかったんです
 私は…先輩が好きだから望むことをしたいって思ってました。
 だけど、それは恋に恋してたんだって気づいたんです」


涙を浮かべながらも凛とした瞳で見つめてくる香穂子に思わず怯んでしまう


「……そうだな。お前は俺に見返りを求めてた
 その口ぶりだと真実の愛でも見つけたって言いたいのか?」

「そうです…私、月森くんと付き合うことにしたんです
 さっき月森くんから告白されて…OKすることにしたんです」


―――は?

一瞬、俺は頭の中が真っ白になった


「………そんなにヨカッタのか?」

軽蔑するような目で香穂子を見つめた


「そんなことじゃないです。
 別にそんなことなくて良い…月森くんは私を必要としてくれる
 私を愛しく思ってくれる…だから傍にいたい…
 それだけです」


「バカか?所詮、お前は自分のエゴから抜け出せてないじゃないか
 結局、都合の良い恋愛に乗り換えただけだろう?
 それで真実の愛だと思いあがるな」

「先輩とは恋愛してないじゃないですか!」


香穂子は絞り出すような声で言った


「先輩にとって…私は道具だったじゃないですか?
 月森くんといて、それに気づいたんです。
 私はちゃんと恋愛したいだけなんです」


俺は香穂子の上から降りると再びフルートを構える


「いいぜ?所詮、お前は俺の玩具に過ぎない…
 玩具が減ったら買えばいい…それだけのことだ
 行けよ。月森とお子様な恋愛でもすれば良い」


香穂子は髪を整えて背を向けると再び振り返った


「先輩…私は先輩のこと、好きでした
 エゴだったかもしれないけれど、先輩のために何かしたかった
 好きだから役に立ちたかった…それは純粋な気持ちです」


涙を流してそう言うと俺から去って行った




全部、自分で決めたはずだったのに


全部、俺が仕組んだはずだったのに


役者は俺の方だった


全ては俺の心を映し出すものでしかなかった


香穂子…お前を愛しているという、この想いが


演技じゃないことがバカらしくて仕方ない









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<あとがき>
う〜ん、やや消化不良なエンドですかね;
これは魚月の実体験も織り交ぜつつの話だったので途中で何度もあの頃は若かったね…と
遠い目をしていました(笑)
柚木さまは監督でシナリオも全て管理しているようでいて、
結局自分の心の中を映し出しているにすぎず、自分が役者つまり手の中で動かされていた
ということに気づくという感じです。
だけど、気づいた時には香穂ちゃんは月森くんと付き合う
手に入れられないものは美しい…そんな柚木さまのお言葉を反映させたラストです♪
納得できない方もいらっしゃるかもですが、その時はごめんなさい。
魚月の腕の無さ故です。広い目で見てやってくださいm(_ _)m
<桜藤魚月>




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