忘れな草









「いいよな〜親が有名だと」

「月森くんは音楽科のサラブレットだよね」


俺の音楽に対する評価はいつもこうだった


だけど…彼女―日野香穂子は違った




初めて会ったとき、彼女は眼を輝かせて俺の音色を褒めてくれた

どこまでも透きとおった瞳に…

俺は目を奪われた






「蓮くん、ここで練習してたの?」


ふわりと彼女がほほ笑む


「すまない外の空気を吸いたくて…
 言えば良かった。探させてしまっただろうか?」

「ううん。それに良いもの見つけたから」

「良いもの?」


彼女が手に持っている花に目をやる


「これ、蓮くんにあげる」

「何の花だろうか?」

「忘れな草だよ」

「忘れな草…?」

何故彼女がこの花を俺にくれるのか俺にはわからない
そんな俺の様子を見て彼女が口を開いた

「本当はね…用意しておいたの」

「なぜ…?」

「お誕生日プレゼント」

「え…?」

「やだぁ…忘れてた?」

「あぁ…そうか…ありがとう」


自分の誕生日なんて特に意識していない俺はすっかり忘れていた



「あのね…そのお花の意味が私の気持ち」

「君の?」

香穂子が耳元で俺に囁く


彼女の言葉に俺の頬が紅潮した

彼女は恥ずかしそうに、ブーケから一つ花を取ると
俺の左手の薬指にそれを結ぶ


「昔はね、民間療法としてシロップとかで使われてたりしたこともあるんだって
 あなたの心の痛みを癒します…私が…私がずっと…」


香穂子が頬を桜色に染めてほほ笑んだ



彼女の言葉は忘れな草の花言葉そのものだ


それは“真実の愛”






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<あとがき>
お誕生日おめでとう蓮くんvv
香穂ちゃんから逆プロポーズ的に仕上げてみました〜〜