この想いに早く気付けば良かった
そんな言葉はありきたりで俺にとっては何度も自分の中で唱えた言葉で…
多くの人々が行きかうこの駅で、俺と香穂子の間には春という明るい季節には
とうてい似つかわしくない雰囲気が流れていた
君がコンマスになるために、俺は少しでも力になれただろうか…?
俺は君にとって必要な存在だろうか…?
たとえ遠く離れたとしても
君は俺を想い続けてくれるだろうか
香穂子といられる残りわずかな時間だと言うのに
自分の中には彼女を喜ばせるような気の利いた言葉なんて浮かんでこない
「寒くないか…?」
春とはいえ、まだ少し肌寒い
上着を着ていない香穂子に目をやった
「大丈夫」
香穂子が俺の方を見て微笑んだ
もう間もなく滑りこんでくる電車に乗れば、
俺は彼女と会えなくなる
彼女の微笑みを見ることも…彼女の細い肩を抱くことも…
ましてや恋焦がれた彼女の音色を聴くことすら叶わなくなる
留学は自分で決めたはずなのに、何故か誰かから強制させられたような
その重苦しさに胸が詰まった
「蓮くん」
今まで黙っていた香穂子が口を開いた
「私…蓮くんがいなくても練習ちゃんとするから。
『全く話にならないな』なんて言われないように頑張るから」
そう話す彼女の瞳にうっすら涙が溜まる
「だから…そんな頑張ってる私が…蓮くんのこと想ってる私がいるってこと
忘れないで…遠く離れても…また巡ってくる蓮くんとの春を待ってるから」
彼女は精一杯笑っていた
俺は堪らず彼女を抱きしめる
「もっと早く…君への想いに気づくべきだった
君ともっと一緒にいたかった…
もし…もし君が俺と同じ気持ちでいてくれるなら…
待っていてほしい」
「…………うん」
少しすすり泣くような声で彼女が応えてくれた
電車の窓が俺と香穂子の世界を遮断する
けれどどんなに離れても俺は君との春を待っている
君と会えないという寒さを堪えて
陽だまりのような笑顔の君に再会できる春を
*****************************************************************************
<あとがき>
ひっさびさに書きました。書き下ろしました。
もう至らなさが多分、多々あるかと思いますが、どうかご勘弁を(><)
魚月には珍しくストーリーに添う形となりました♪
60000hitお礼作品として捧げさせてください☆
|