穢れぬ女神









「葵、遅れちゃうよ?」


今日も彼女がこうして僕を起こしにくる

朝陽を浴びて輝く彼女は本当に女神みたいだ…


「おはよう、香穂さん」

ベッドの中で目覚めた僕に香穂さんが近づいてくる


「葵、まつげ長い。ずるい!羨ましい!」

「そんなこと言われても…香穂さんだって長いじゃない?」

お互いの視線が交わる

意識しないようにしていたけど、思ったよりも近い香穂さんとの距離に戸惑った

「葵……」

香穂さんが僕を見つめる

だんだんと瞳が閉じられていく…困るよ


「あーでも月森も長いよね」

僕のその言葉に香穂さんが瞳を開けた

「………蓮くん?」

「ヴァイオリン弾いてる時とか男の僕でもそう思うもの。
 香穂さんなら余計にそう感じるんじゃない?」

香穂さんが僕の顔に枕を押し付ける

「知らない」


女神の機嫌を損ねてしまった


僕は弱い…女神の誘惑に耐えるのに必死だ


どうして女神は僕を構うのか

いっそ切り捨てられてしまえば楽なのに

あぁ…それも辛いかもしれない

結局どちらも選べない

女神と距離を置くことも女神に近づくことも

今日もまた中途半端な距離で女神の近くにいるしかできない



香穂さんと玄関を出るとそこには彼が待っている

「月森、ごめんね。待たせて。」

「いや…別に構わない」


香穂さんと月森との間に少し距離を取って僕はわざと遅れて歩く


こうして並ぶ君たちには、やっぱり僕は近づけない

僕と香穂さんとじゃ違いすぎる

彼女にはふさわしくない


彼女の音色を耳にする度に積る愛しい気持ち

彼女の音色を耳にする度に積る悲しい気持ち


悔しいけれど…歯がゆいけれど…僕は君には近づけない

僕のような才能では君の魅力を伸ばせない

僕のような男では君を穢すことしかできない…



苦しくて仕方ないこの気持ち

この雪解けの氷のように溶けてしまえば良いのに…


僕のどうしようもない

穢れも

劣等感も

募るばかりの愛しさも












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<あとがき>
魚月はポエマーです!
これにはかなりそれが出ると思うので
ポエムポエムが苦手な方はご注意を☆(他作品でもそうですが…;)