穢れぬ女神









「葵、来なさい」


僕は一人っ子だった

父さんが連れてきた紅い髪の女の子

瞳が大きくて笑顔がとってもかわいくて印象的だった

その時から僕に家族が一人増えた

香穂さん…君が新しい家族として











「葵?葵寝てるの?」


ん……応接間のソファーの上、彼女の奏でる音が心地よくて眠ってしまったみたい


「ごめん…途中で寝て。すごい心地良くて…君の音色はいつまでも…」


「もう10年以上も聴いてるくせに…よく飽きないわね」


「飽きないよ…きっと永遠に…」






香穂さんのご両親が多忙なこともあり香穂さんは僕の家に預けられた

彼女も僕もまだ小さくて二人して家族が増えたような感じがしてた

僕の両親も祖父母も香穂さんのことをすごくかわいがっている

本当の娘みたいなものだ



両親が僕と香穂さんにヴァイオリンを習わせた

あのコンクールからだったかな…彼に出会ったのは…




「ねぇ、葵これから蓮くんの家で合奏するの。葵も行こうよ」

香穂さんがキラキラとした笑顔で僕に尋ねる


「悪いけど…僕これから遊びに行く予定があるから…二人でしてなよ」

あぁ…また彼女に断りの言葉を告げてしまう


「そう……残念だなぁ…」

彼女がしょんぼりとした顔をした


やめて欲しい…そんな顔…僕の罪悪感がどんどん増えていくよ…

君を悲しませてしまうなんて…僕には耐えられない…


本当は予定なんてないんだ

でも君の音と彼の音に…僕の音色が混ざるなんて、おこがましい



あのコンクール、彼は優勝、彼女は二位だった

僕と彼女の間に彼も加わって…仲間が増えた…それだけだったのに…

僕は気づいてしまった

彼女と彼の清らかさ…高尚さ……そして僕の穢れ…


僕はヴァイオリンをやめた

あの清らかな音色を目の当たりにしてまで弾いている図々しさは持ち合わせていない

たとえ、自分が好きな楽器だとしても…いや、好きな楽器だからこそ…好きな音楽だからこそ

僕が穢してはならない

そこまでして弾いている恥に耐えられるほどの神経を僕は持ち合わせていない


あれから何年も経って、彼女も彼も…僕も中学3年になった

同じ学校に通っているし、一緒にいるけれど、この憂鬱から…この痛みから解放されない


僕はいつまでこの痛みを抱えて彼女と彼と接するんだろう


二人とも好きだから…辛い…

嫌いになれたら…離れられたら…どんなに楽なんだろう…


こうして僕は今日も彼女と彼の合奏を離れた所で聴いている

木陰で

陰が僕にはふさわしい


光輝く者の陰が












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<あとがき>
他の部屋で幼馴染連載あるなら、葵の部屋でもやるべ!と思い立ちました〜
ただ、この作品は魚月の太宰への傾倒っぷりが炸裂するかと…
切ないものになるかと思います。
それでも良いという方はゼヒお付き合いくださいまし♪